場違いにも程があるとは充分承知していた。
けれど、私をそっと押す風よりも急にやってきた浮遊感よりも、頭を占めた事柄はなんとも呑気なものだった。
 
空ってこんなに高いのか。
 
ぼんやり考えていられる程、傾く身体は思いの外ゆっくり落下しているようだ。
あるいは…そこまで思考を巡らせたところで、抗えない程の強い力に引っ張られる。
ぐりんと景色が流れていって、抱き竦められていると気付くのには少々時間が必要だった。
逼迫した声が耳を打つ、それで漸く気が付いたのだ。
 
 
 
「ぼーっとしてんなよ、落ちるとこだったろ!」
 
 
 
余程焦ったのか、触れる胸から聞こえる心音は大きくて早い。
それが私の琴線に触れて、つい、本音を零してしまった。
 
 
 
「だって、もうすぐあそこへ行ってしまうんでしょう?」
 
 
びくりと一つ、微かに震えた身体。
暗黙の不可侵条約を破ってしまったことに気付く。
とは言え後の祭りで、ずるいよだとか、遠いよだとか、届かないじゃん、だとか。
釣られてするする出てきた言葉達は言ってはならないものだと分かっていても、止めることは出来なかった。
背中を撫でる手の優しさが今までにないもので、それが一層掻き立てるのだ。
 
逃げようよ、浮かんだ酷く甘くて毒のある選択肢。
反射的に顔を上げた私の眼はきっと濁っていたのだろう。
ただただ慈しむような光を宿した双眸がこちらをじっと見つめていた。
言葉は喉に詰まり、漸く漏れ出したのは透明な雫だった。
 
 
どうして貴方は泣かないの。
私よりも泣きそうな顔をしているのに。
 
 
 
雲ひとつない空の青さが憎らしかった。
 
 
 
 
 
get through with −(仕事など)を終える−
(やめてよやめて、世界なんていらないから)

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