これはまた随分と面倒な告白をされちまったもんだと、揺れる無垢な瞳を変わらぬ表情で見つめ返した。
確かに驚きはしたものの、なんとなくここで動揺しては負けだと感じたからだ。
理由など大層な物はないが、毎度毎度呼び名!が投下してくる爆弾を、軽やかに切り抜ける印象を与えたかったのかもしれない。
所謂、オトナの余裕という奴だ。

自慢じゃあないが、ポーカーフェイスには自信がある。



「で、オレにどうしろってんだ?」

「わからない、わからないけど助けてほしい。」



アニーとカノンノに相談したらユーリじゃなきゃ治せないっていわれたの、その言葉に内心、先程船内ですれ違った二人の反応に漸く合点がいった。
呼び名!を泣かせたら駄目だの幸せにしろだの、肩に手を掛け思う存分ガクガク揺らされる理由がちっとも思い当たらなかったのだ。
道理で恋愛モノの小説を読み終えたばかりのエステルのような、ある種恐ろしい程の勢いと眼光を放っていた訳である。


一人密かに納得した所で、ユーリはあまりに好都合な展開に思わず笑みが零れそうになった。
とは言え、そのような行為をしてしまえば、折角の機会を逃してしまう事は明白だったため、どうにかすんでの所で持ち堪える。
普段なら元気に孤を描く眉はハの字に、好奇心の塊のような瞳は不安という蔭りが立ち込めていたからだ。
真面目に相談している中笑われる事程、辛い事は無い。

軸足を右から左へと移し替え、さも慮ったかのように口を開いた。


「…つまり、だ。
この前オレとクエストに行った辺りから、苦しくて苦しくて仕方ないと。
酷い時は動悸に眩暈もあって、大体そんな感じになんのはオレが近くにいる時、って事だろ。」

「うん、まとめるとそうなるよ。」



どうやら上手く自分の言い分が伝わった事が嬉しいらしい。
大きく頷き、あまりに素直な物言いに、ユーリは一瞬、自身の考えがとてつもなく邪な物のように思われた。
しかし其れは本当に一瞬の事で、呼び名!がもう一度小さく助けを請うた時には遥か彼方へと吹き飛んでしまっていた。
頼りにされるだけでも嬉しいというのに、内容が内容である。
加えて、しおらしげに右手を絡め取られればもう仕様が無い。



「…とりあえず、もうちょいこっち来い。」


解決策を思い付いたとでも思ったのだろうか、ちょこんと疑いもせず不用心にも近寄った晴れやかな顔は、やんわり抱きしめた途端、埴輪のようになった。
もしくは能面と言っても過言ではないだろう。
加えて姿勢は、電気が走ったかのように、ぴんっと直立不動に陥った。


「どうだ、治らねぇか。」

「ぜ、ぜんぜん。」

「へぇ…なら、もちっと近付かねぇとな。」



背中に回した腕に一層の力を込める。
嫌がるか、奇声を発するかぐらいすると思われたが、それも無い。
大人しく引き寄せられる様に、なんだ抵抗しねぇのかと気を良くしたのもつかの間、どうやら軽く放心状態であっただけらしい、引き剥がそうと猛烈な抵抗を受ける事となる。
素早く開閉を繰り返す唇からは、壊れたレコーダーのように同じ言葉ばかりが羅列する。


むりむりむりしんじゃうしんじゃう

(…これ位で死ぬ訳ないだろ)

むりむりむりむりむりむりむり


バタバタと足掻く呼び名!の必死の抵抗も、悲しいかな、すっぽり収まる腕の中では無力に等しい。
またそんな行動さえユーリには愛おしく感じられる訳であり、尚更力を強めるのだった。
ハグ程度でこんな反応ならこれ以上の時はどうすんだよ、先を想像しては、笑みを抑える事など到底不可能な話である。
依然として真っ赤な顔と手とを無茶苦茶に振り回す姿に、込み上げる悦楽がどうしようもない。
心中、年甲斐も無くはしゃいでしまう。

そこでふと、ユーリの脳内に金髪のお固い騎士団長殿の台詞が過ぎった。
曰く、自分はまだまだ子供らしい。
(正確に言えば、子供っぽい一面も併せ持ってるよねとの事。)



確かにそうかもしれないと、不服だったその言葉がすんなり受け入れられる今の自分に苦笑した。
しかしそれも仕方のない事で、いちいちオレを煽る呼び名!がいけない、と誰に言うでもなく自身の内で呟いたのだった。









bring up −育てる−
(あと少しだけならお待ちしますよ、お嬢さん)

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好き勝手にキャラ出し過ぎましたかおす。
一応、RM2設定という事で←


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