柔らかい日差しに浅い眠りと緩やかな覚醒とを繰り返していた時だった。
部屋の雰囲気なんのその、お前はドアに怨みでもあンのかというほど勢い良く飛び込んできたのは恐らくアイツ。
 
お約束の展開で、何時もなら怒声の一つでも浴びせるところ、今日に限ってどうにも睡魔が強かった。
というより相手にするのが億劫で、もたげた頭を上げる事さえ叶わずましてや声を張り上げるなんて。
要するに、このまま眠ってしまいたかった。
久しぶりに屋根のある場所での休息に加え、昨日の夜は夜で寝ずの番。
 
 
つまり、アレだ。
 
めんどくせぇ。
 
 
 
漸く深い眠りにつけると思った矢先の騒音を若干、いや、かなり腹立たしく感じながら、俺はシカトを決め込むことにした。
 
丁度、向こうも何時もとは違う俺の様子に気付いたようだ。
(遅ェ、っての)
 
 
本人としては忍び足で歩いてるつもりなんだろうな、大袈裟に言うとゴムボールみてェにぴょんぴょん跳ねる足音は予期したアイツだという事を裏付ける他ならない。
なんとなく寝顔を見られるのも癪なので、とりあえず更に深くうなだれてみる事にした。
 
 
 
「…寝ちゃってるの?」
 
 
 
ビンゴ。
 
不意に聞こえてきた声は正にアイツだった。
どうやら直ぐお隣りに立っているらしい、むず痒い気配を感じる。
 
 
「ね、スパーダ…」
 
 
 
そっと右肩に触れた温もり、普段からは想像もできないほど甘い囁きに、思わず。
僅かに肩が震え腰掛けていた椅子が小さく鳴いた。
 
これは、まずい。
 
 
 
 
「起きてるでしょ。」
 
 
 
咎める様な視線が刺さる、刺さる。
最早、疑問にさえしてくれない。
 
とは言え俺は寝たいだけであって何も悪くねぇし、寧ろ人の安眠を現在進行形で妨害していらっしゃる誰かさんのがよっぽど。
こうなりゃ意地でも寝てやる、という思いが沸々と沸き上がってきた。
 
 
 
 
「本当は起きてるんじゃないの?」
 
 
 
あぁ、ウゼェ。
 
どうやら先程よりも近付いてきたらしく、甘い響きと共にこれまた甘ったるい香りまで漂ってきやがった。
むず痒いを軽く飛び越して、身体の右側がやけに熱い。
 
 
 
 
 
「それとも……本当の本当に、寝ちゃってるの?」
 
 
 
 
吐息が睫毛を揺らし鼻を擽る。
 
ふわりと、一瞬。
 
 
 
 
 
 
 
 
ドアを閉める事も忘れ、ぱたぱたと足早に去っていく後ろ姿を薄く開けた目でこっそり見送り、そういえばアイツも女だったんだなとしみじみ感慨に浸った。
 
ンだよ。
今までの我慢とか、俺の涙ぐましい努力って。
 
 
 
ペろりと唇を軽く一舐めし、首をゆっくり一周回す。
軟骨の削れる乾いた音が小気味よく流れ、完全に覚醒してしまった頭を早速フル稼働させる事にした。
 
 
 
 
 
 
succeed in −成功する−
(さァて、どうしてやろうか)
 
 
 
----------
3M企画
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -