Take Me to Your Wanderland

決戦の日だ。

わたしたちは決意に心を燃やしながら、ホグワーツに立っていた。彼らがホグワーツを去ってから、一年寂しさの中で過ごし、卒業した学び舎。今夜そんな場所が、魔法界の、そして世界の未来を決める最終決戦の場となる。わたしは彼──ジョージ・ウィーズリーと繋いだ手を見下ろし、そしてもう一度窓から見える景色を見つめた。こうしていられるのも、最後かもしれないのだから。

「俺たち、すげえところに来ちまったよな」

そう言うのは、ジョージの隣に立つ、彼の双子の兄弟──フレッドだ。「また戻ってくるなんて思ってもなかったぜ──しかも、こんな時に」思い出に浸る時間も与えてくれやしない、と肩をすくめて、ジョージが答える。けれどわたしは、少しばかりの間、彼らと過ごした学生時代を思い返していた。

わたしとこの双子たちとの出会いは、そんな劇的なものではなかった。同じ年に入学した、グリフィンドール生。それだけの繋がりだった。しかしある日、彼らがいたずらを仕掛けている場面に遭遇し──結果的に巻き込まれ、一役買うことになったことで(“せいで”、というのが正しいのかもしれない)、いつの間にかわたしたちは周囲から三人で一つのような扱いを受けるようになったのだった。

「おいおい、ナマエ!何怖気付いてんだよ!このジョージ・ウィーズリーが信じられないって?」

ある日、女子寮の窓を叩く音に目を覚ましたわたしの前に、箒にまたがった二人が待っていたことがあった。深夜に抜け出した上、箒を許可なく競技場以外で使用しているなんて、校則破りもあまりに甚だしい。けれど、あの時ジョージの手を取ったときから、わたしは彼に惹かれていたのだと思う。いつしかジョージばかり見つめるようになったわたしに、フレッドが囁いた。「早めにかっさらわないと、誰かにとられちまうぞ」その後、フレッドの仲立ちもあり──晴れて、わたしたちは付き合い始めることになる。

「ウ〜、我らが監督生」「俺たち三人の中から監督生なんかが出るなんて、夢にも思わなかったぜ」

監督生バッチをつけたわたしを囲んで座りながら、そう囃し立てた日もあった。しかしあんなにからかったというのに、しばらく経って二人きりになったジョージは小声で、「バッチ、似合ってる」とぼそぼそ呟いた上に、「監督生なんかになって、一緒にいる時間が減ったんじゃないか?」なんで漏らすものだから、思わずそのくちびるに口付けた。

めくるめくちらつく学生時代の記憶を辿り終える前に、ヴォルデモートの声が響き渡った──それを皮切りに、戦いの火蓋が切って落とされる。

わたしが願うのは一つだけだ。大切な人たちが──親友のフレッド、そしてジョージが──命を落としませんように。耳でも腕でも足でも、持っていけばいい、だけど彼らの命だけは。そんな思いを胸に、一身に戦い続けた。容赦なく許されざる呪文を放つ死喰い人たちに対して、苦戦を強いられながらも。

そんな中、突然その戦いの場にそぐわない言葉が降ってきた。

「ナマエ、結婚しよう!」

ジョージがわたしの腕を掴んで引き寄せ、そう叫んだのだ。あたりが騒がしいせいで、そうしないと互いの声が聞こえないためだ。しかしわたしが驚いたのは、その声の大きさに対してではなかった。わたしたちは今間違い無く、死喰い人たちの群れに襲われている。彼らがわたしたちに向かってかけているのは失神呪文などではない、緑色の閃光、死の呪文だ。

「今!?」正気?と尋ねたくなるほどの言葉に、わたしは目の前に迫った死喰い人にペトリフィカス・トタルスをかけながら、そう叫び返した。ジョージもまた、わたしの背中越しにエクスペリアームズを放っている。

「僕たちには今しかない、そうじゃないか?君を愛してる、ナマエ!」

その言葉に── “愛している” という言葉に、応えないわけにはいかなかった。しかも、彼の言葉は的を得ていた。そうだ。わたしたちには、今しかない。

「……フレッド!わたしたち結婚するわ!立会人を!」

「今、ちょっと、忙しいんだけど、ね!」

フレッドが二人の死喰い人に苦戦しながらそう答える。「危ない!」という声とともにわたしがそんな彼の着ていたローブを引くと、フレッドが立っていた場所に緑の閃光が走った。「ありがとう、ナマエ」座り込んだフレッドに手を伸ばすと、彼はその手を固く握って起き上がる。その目は決意に、そして学生時代によく見た、面白いことを見つけたような輝きに満ちていた。

「ナマエ・ミョウジ!」

フレッドが叫ぶ。そんな時にも、死喰い人たちと味方が入り混じって閃光が飛び交っていた。

「我が相棒ジョージ・ウィーズリーを生涯の伴侶として、ユーモアのセンスと耳の穴共々愛し続けることを誓うか?」

「誓うわ!」ジョージの瞳を見つめながら、そう叫ぶ。彼の後ろに迫った死喰い人に噛みつきフリスビーを投げつけ、もう一度ジョージの手を握りこんだ。わたしの目にはジョージしか映ってやしない。そう伝わるように。

フレッドは死喰い人の猛攻を防ごうと落ちていた盾をその手に持ち、しかし目はしっかりと面白がるような色をたたえながらわたしたちを振り返る。

「ジョージ・ウィーズリー!我らが自慢の向こう見ず、ナマエ・ミョウジを、一生の友として、そして伴侶として、生涯愛し続けることを誓うか?」

わたしたちが手を取り合う間を、フレッドの呪いがすり抜けた。そうして、今にも迫ってきそうな死喰い人たちは、その爆発呪文によって道を一時塞がれる。

「誓う!」

「では、誓いのキスだ!」まるで式場のように、フレッドは空き箱の上に立ってそう宣言した。兄のようで、親友で、かけがえのない悪友──そんな彼が立会人なのだから、これ以上の誓いの場はない。

「ああこの野郎、これが最後でありったけの糞爆弾だ、喰らえ!」そう叫びながら、フレッドが四方八方から襲いかかる死喰い人たちに両手いっぱいの糞爆弾を投げつけた。それを傍目に、ジョージがわたしの腰を抱く。「必ず生きて、とびきりの指輪を買うよ」、そんな言葉をいたずらっぽい笑みとともに囁いて(「そんなことより、早くしてくれ!」という悲鳴混じりのフレッドの声が聞こえた)、ジョージが口付けた。その時ばかりは周囲の喧騒も、飛び交う呪文も、全て消え去ったかのように感じる。永遠のようにも思われたキスが終わると、わたしたちは背中を向けあって周囲を囲む死喰い人たちに向かって呪文をかけ続けた──必ずこの戦いを終わらせる、そんな誓いを胸に。
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