■ ■ ■


わたしが部屋のドアを開けた途端、パン!という破裂音とともに、色とりどりのテープが視界いっぱいに広がった。突然のことに目を白黒させていると、ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーターというおきまりの四人組が、これ以上ないというほどはしゃいだ声で「成功だ!」と叫んだ。

「一体どういうことなの?」

わたしが動揺したままこの突然の行動を尋ねると、彼らを代表してかジェームズがずい!と何かを差し出してくる。火のついたろうそくが刺さったそれは、どこからどう見てもケーキだ。

「「誕生日おめでとう、なまえ!」」

「「……先生」」

にんまりと笑うジェームズ、シリウスに対し、リーマスとピーターは真面目な性格もあってか後ろめたそうにそう付け足した。わたしは思わず壁に貼ったカレンダーを振り返って、「忘れていたわ!」とまた驚いて叫んだ。

――そうだ、今日はわたしの誕生日なのだった。

「ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター。すごくうれしい。あなたたちに出会えて幸せよ。ありがとう」

ジェームズがケーキを抱えているのでみんなをまとめて抱きしめることは諦めつつそう言うと、それぞれ照れくさそうな顔を見せつつ頬にキスをくれる。

悪戯仕掛け人が用意したクラッカーがマグル式だったことに内心ほっとしつつ――“何も起こらない”というのが物珍しいとシリウスが採用したらしい――、厳かにケーキを抱えるジェームズたち一行を部屋に招き入れた。

「絶対になまえは忘れてると思ったんだ。僕の一人勝ちだ」

ジェームズが賭けでもしていたのか他の三人からクヌート銅貨をせしめている間に五つ分の紅茶を淹れると、ケーキが一人分であることに気づく。

「ちょっと失礼するわね」

わたしがケーキに杖を向けると、彼らは何をするのか見当がつかないのか一瞬驚いた顔を見せたものの、エンゴージオを唱えた瞬間歓声が上がった。

わたしが切り分けてそれぞれのお皿に分けても余るほど大きくなったケーキをつまんでいると、ジェームズが「もしかして、僕のプレゼント届いてないのかい!」と思い出したように声を上げた。「突然どうしたんだ」なんてシリウスから突っ込まれたジェームズはなぜか立ち上がって主張し始める。

「なまえが誕生日だって気づいてなかったってことは、部屋にプレゼントがなかったってことだろう?」

わたしは彼の言葉にああ!と声を上げて、くすくすと笑ってしまった。

「ジェームズ、あのね、わたし昨日採点に追われてて、机で寝ちゃったの。自室に戻れていないからまだ確かめられていないだけよ。あとで大切に開けてお礼の手紙を書くわね」

そう言うとジェームズは満足したのかもう一度座り直して、「やっぱり屋敷しもべ妖精の手を借りるべきだったかな」と言いながらケーキを頬張った。

「あなた達の手作りだったの?」

わたしはまた驚かされて手元のケーキを見下ろすと、また四人は照れ臭そうに笑いながら頷く。わたしは喜びがとうとうおさえきれなくなり、「すごく美味しいわ!」と机越しに彼らの頭を抱きしめた。

そうして罰則が入ってたんだ!と嵐のように去って行った彼らと入れ替わりに部屋を訪ねてきたのは、なんとルシウスとセブルスの二人組だった。悪戯仕掛け人たちと鉢合わせなくて本当に良かった、と胸をなでおろしつつ、二人を部屋に招き入れる。机の上に残ったままのケーキを見たルシウスがおや、という顔をしたのでわたしが首をかしげると、「先を越されてしまったようだ」と彼は言った。

「誕生日のお祝いを、と思いまして」

いつもの気取った声でそう言ったルシウスが机に置いたのは、綺麗にフルーツで飾られたケーキだった。

「あなたまで覚えていてくれたの?感激だわ」

わたしがそう言いながらルシウスの頭を幼い子にやるように撫でると、セブルスの手前恥ずかしかったのか少しむすっとした表情を浮かべた。しかし気を取り直したように紅茶を人数分淹れ直して、「少しくらいは食べられるでしょうね」と彼のケーキを切り分け始める。

この顔ぶれでケーキを囲むことの奇妙さを感じつつも、彼がわざわざ取り寄せたと言った通り今まで味わったことのない繊細な味を楽しんでいると、今まで言葉少なだったセブルスがおずおずと口を開いた。

「おめでとうございます、先生。いつも本を貸していただいているお礼になればいいのですが」

その言葉に、「えっ!」と声を上げてしまって、セブルスはきょとんと首を傾げた。

「もしかして、セブルスも送ってくれているの?」

わたしは慌てて両手を頬に手をやった。もしかして届いていないのか、と驚くセブルスにわたしは慌てて違うのよ、と事の顛末を説明する。

「誕生日の夜を机で過ごすとは。なんともみょうじ先生らしいことで」

ルシウスに鼻で笑われたものの、「プレゼントのお礼が遅れてごめんね、またあとでカードを送るわ」ととりなしてケーキに戻る。

「あなたたちが来てくれてとても素晴らしい誕生日になったわ。ありがとうね、親切なスリザリンの子たち」

わたしが彼らの頭を優しく撫でると、また子ども扱いするなと言わんばかりのルシウスの表情を見られたものの、どこか入学したての頃のような顔のまま帰っていった。

わたしは残ったケーキを大切にしまうと、あわてて自室に戻る。そこは、プレゼントの箱の山になっていた。ああ、なんてこと。わたしはそう内心呟きながら、それらを開ける作業に入る。

悪戯仕掛け人たちをはじめとするグリフィンドール生たち、そして受け持っている学年の生徒たちからのもの、そして先ほどのルシウスとセブルスからのものもきちんとその中にあった。そして、ダンブルドアやマクゴナガルといった教師陣からも、丁寧なカードとともに贈り物があり、わたしは気づくのが遅れたせいで朝お礼を言えなかったことを悔いた。あとできちんとカードを送らないと、と決意したところで、送り主の名前がないカードがあることに気づく。黒いカードに金の文字で「なまえ、誕生日おめでとう」と書かれたそれには、ローズマリーの葉が添えられている。

誰だろう、と考えながら、わたしはどうしてもそのカードが目について離れなかった。印字されているため、筆跡で測ることはできない。

しかしそのローズマリーの葉を見ていると、なぜだか学生時代を思い出す。それも、トムと過ごした誕生日の一日を。

わたしは箱を開く手を止めて、光に透かすようにその葉を見つめた。何年生だったかしら、と考えて、まるで目の前にトムがいるような心地にまでなる。目を閉じれば、憂いの篩に任せるまでもなく思い出すことができた。

あの日、わたしはエルやフリーモントたちからお祝いのささやかなパーティを開いてもらい、夜になってお開きになったところで、トムからの呼び出しがあったのだった。規則破りだとびくびくしながらも寮を抜け出して庭へ出ると、トムは後ろでゆるく手を組んでわたしを待っていた。夜の庭の中で見る彼はどこか神秘的で、声をかけるのさえ少しためらってしまう。そんなわたしに気づいたのかトムは振り返って少し首を傾げた。「そんなところで何をしてるんだ」とでも言ったかもしれない。

「こんな所見つかったら大目玉だわ。それも、 “優等生”のあなたに誘われるなんて」

わたしが先ほどの心の揺れを忘れようとそう彼をからかうと、トムは肩をすくめて「バレなければ何も起こっていないのと同じだ」だなんて、不遜なことを言った。

トムはわたしの手を引いて湖まで連れて行くと、彼の手に先ほどまではなかったプレゼントをわたしに渡して、わたしはそれに盛大に喜んだのだった。そうして、そのお返しに咲いていたローズマリーを渡し、こう言ったのだった。

「ローズマリーはね、思い出、とか、追憶、とかの花言葉があるらしいわ。今日の素敵な思い出をずっと忘れないようにする」

トムはそれを受け取って、月の光に透かすように仰ぎ見た。そこで彼が何を言ったのか、もう記憶の奥底に眠ってしまっている。けれど、あの時月光に照らされたトムの横顔ははっきりと覚えているのだ。わたしはそこまで思い出して、「まさかね」とひとりごとをこぼした。

――彼がわたしにこんなふうにカードを送るわけがない。

そう言い聞かせながらも、わたしは枕元にそのローズマリーの葉を丁寧に置くとベッドに横になってそれを見つめた。今日は彼の夢を見る気がする、そう考えながら。

子守唄を終わらせて

蓮華様、11111hit目のキリ番リクエストありがとうございました!「「きみがひとりぼっち」の番外編か後日談」というリクエストでした。お楽しみいただけると幸いです。

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