■ ■ ■

ああ、なんて今日はついてないんだろう。

僕は今日何度目かのため息をついた。
そんなため息も、今はひどく熱い。
今ホグワーツは、毎年の冬の恒例のようになっている風邪が流行中だ。マダムの薬を飲めば一発で治るが、今年は特にかかる生徒が多いせいで薬が間に合っていないらしい。それから、医務室のベッドも。

僕はその両方を得られなかった生徒の一人だった。そのせいで、僕はグリフィンドールの自分の部屋でごほごほと咳き込みながら寝込む羽目になっている。

今日はホグズミードの日だというのに。

そうなのだ。今日は待ちに待ったホグズミードだった。
もうホグズミード行きの許可が出たのは数年前になる。だから、まだまだ慣れていない三年生たちよりはどちらかというと行って当たり前のような感覚になってきている。

だけど、今回は特別だった。なまえがようやく一緒に行くことをオッケーしてくれたからだ。

ハリーが”生き残った男の子”なら、なまえは”ウィーズリー家の双子を見分けた女の子”に違いない。
グリフィンドールに組み分けされた後、誰も僕たちを見分けることができなかった。それは俺たちにとってとても面白いことではあったし、何も気にすることはなかった。

しかし、なまえは僕を「ジョージ!」と呼び、フレッドを「フレッド!」と最初から呼んだのだ。そして、今まで一度も間違えたことがない。

普通のことかもしれないけれど、それは僕たちにとって特別なことだった。その日から彼女は僕たちの”特別な女の子”なのだ。

そんななまえは普段僕たちとつるんではいるものの、いつもホグズミードは女の子たちと行く。
なのに、今回初めて、一緒に行けるはずだった。

そんな日に風邪をひくなんて。
なまえはフレッドと二人で行っているだろう。もしかしたら二人でハニーデュークスのお菓子を並んで食べてるかも、フレッドはバタービールの泡のヒゲを、なまえにとってもらってるかもしれない。

僕はなまえに片思い中なのだ。
そして、双子だからわかる。フレッドもまた、なまえに恋してる。

僕は考えすぎでもともと熱があるというのにもっと熱が上がった気がしてあえなくベッドに沈んだ。

そんなとき、コンコンと僕の部屋のノックが鳴った。グリフィンドールにノックなんてするやつがいたかな、と思いながらも風邪で少し枯れた声で「はーい」と返す。

すると少し遠慮がちにドアを開けたのは、他ならぬなまえだった。

「なんで!?」

思わずそんな声を張り上げてしまい、思い切り咳き込んだ。

「ああもう、ひどい声ね。でも元気そうじゃない」

素知らぬ顔でそんなことを言いながら僕の横に小さな鍋のようなものを置いたなまえは、杖を振って部屋の端にあった椅子を呼び寄せた。
そうしてそれを僕のベッドの横に置きなおすと、座ってなんてことのないように言う。

「調子はどう?おかゆを持ってきたの」

いや、その前にきみは僕に色々と説明することがあるだろう。
僕が目を白黒させていると、彼女は何を思ったのか僕に思い切り顔を近づけてきた。
思わずのけぞった僕にも構わず、額をぴたりと合わせてくる。

「あら、熱もひどいわね。それに顔も真っ赤だわ」

あっけなく体を離したなまえは、残酷にもそんなことを言う。誰のせいだと思ってる!と叫び出したい気持ちだったけれど、ほんの少しある僕の理性や羞恥心(いたずらをするときは、一切なくなる)がそれを思いとどまらせた。

結局僕はなまえにスプーンを口に運ばれ、おかゆを食べている。
なんだかんだ言っても好きな子に看病されるのは男のロマンというもので、これから一週間はフィルチにいたずらを仕掛けるのをやめてやろうと思えるくらいには人に優しくなれる気がした。

しかし気になることがある。

「…なまえ、フレッドはどうしたんだ?」

「フレッドがジョージは風邪だって教えてくれたのよ。看病しなきゃって言ったら、僕はゾンコの店に行かなきゃいけないからきみが行ってやってくれ!って」

そうだ、僕たちは双子といえど、もちろん違うところはたくさんある。
最近顕著になってきたのは性格面で、フレッドは無邪気で楽観的なのに対し、僕はどちらかというと慎重派だ。
フレッドは心からそう言ったに違いない。彼女への恋心だとか、そういうのは全て忘れてしまって。

ああ、信頼なる友よ。明日のデザートは譲ってやろう。

「それにしても、あなたたちはいつも二人で風邪を引いてたでしょう。ジョージだけだなんて、湖に一人で飛び込みでもしたの?」

「そんなわけないだろ!と言いたいとこだけど、見事に当たりなんだ。あそこの湖の底は見たことないモノの宝庫なんだぜ」

「あなたたちは本当に…賢いのかバカなのかわからないわ」

なまえと二人きりで話したのは初めてだったので最初は柄にもなく少し緊張したものの、なまえが聞き上手なおかげで調子が戻り、風邪を引いていることなんて忘れるほど腹を抱えて笑ったりした。

しばらくすると、コツコツと窓を叩く音が聞こえてきた。

「あら、フクロウ便だわ」

なまえが窓を開けると少し冷たい風が吹き込んで、それとともに二匹のフクロウが僕の枕元に飛び込んできた。そしてそれぞれ小さな紙袋を僕の布団に落とすとそのまままた帰っていってしまう。

「二匹も来るなんて一体なんなんだ?」

と、なまえが覗き込んでいる前で開けると、一つ目はなんとフレッドからだった。
よく見るとその紙袋にはハニーデュークスのロゴが記されていて、中身は僕が好きなチョコレートだった。

「ホグズミードから飛ばしたのかしら。本当に仲がいいのね」と優しく微笑んだなまえとそのチョコレートをかじりながらもう一つの包みを開ける。

それはまだムポンフリーからのもので、やっと薬が届いたらしく「すぐに飲むように」とのメッセージとともに小瓶が入っていた。

「うげえ。これは百味ビーンズの鼻くそ味よりマズイやつじゃないか」

僕が世界の終わりのような顔をしているのを見るとなまえは吹き出し、「ぐずぐずしてないで早く飲みなさい!」とまるでママのようなことを言い出す。

この薬は飲んだあと眠くなってしまうのだ。正直、さっき一人で寝込んでいた時は早く薬を飲みたいと思っていたけれど、今のこのなまえとの時間を手放すのはとてつもなく惜しいことだった。

しかし看病に来てくれたなまえの手前、飲まないわけにもいかず、ぶつぶつと愚痴をこぼしながらもふたを開けて一気に飲み込んだ。

すると、「good boy」なんてくすくす笑いながらなまえが布団をかけてくれるものだから、僕は途端に眠気が来てしまってすぐにうとうとし始めた。

眠りに落ちる直前、なまえが僕のひたいにキスをした気がしたけれど――それが夢なのか現実だったのか、僕が認識できる前に目を閉じてしまった。




バタバタと、何かが飛び込んで来る音に僕はゆっくりと目を開いた。
僕の視界いっぱいに見慣れた顔があるのに気づき、思わずびくりと体を跳ねさせてしまう。

「やるな、相棒」

僕を覗き込んでいた僕と同じ顔がニヤリと笑って体を話すと、そこには僕のベッドに顔を伏せて眠るなまえがいた。
そして手があたたかいことに気づくと、僕は堪えきれずに

「oh my gosh!」

と叫んだ。この声はきっとソノーラスを唱えなくてもグリフィンドール中に響いていただろう。

なまえは、僕の布団に顔を伏せながら、しっかりと僕の手を握っていたのだ。

ああ、神様!今日ほど素晴らしい日はない!

そうして僕は、「見せつけるねえ」とフレッドにニヤニヤ笑われながらも、なまえが起きるまでずっとそうしていたのだった。


きみとぼくの日曜日

A様、キリ番のリクエストありがとうございました!「ウィーズリーの双子のどちらか」と、「ホグズミードに行けなかった休日を一緒に過ごす」というリクエストでした。お楽しみいただけると幸いです。


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