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7回目――これは7回目だ。

わたしは不思議と、何の根拠もなく、これが最後のチャンスだと、そう感じていた。

目を開くまでもない、わたしはもうこの感覚が何か知っている。

――わたしはまた、リセットされてしまった。愛しい恋人、シリウスの死によって。

わたしの学生時代からの悪友で、卒業の年に晴れて恋人となったシリウスが”最初に”死んだのは、魔法省でのことだった。彼のいとこにあたるベラトリックス・レストレンジが唱えた死の呪文によって、彼はその命を終えた。

不死鳥の騎士団としてその場で戦いに参加していたわたしは、目の前の光景を信じられないまま彼に駆け寄りその体を抱こうとした――はずだったのだが、いつのまにか芝生の上に倒れていた。そこはわたしの住む実家の庭だった。

不思議に思いながらも家の中に入りカレンダーを見ると、シリウスが死ぬ数日前になっている。なぜか過去に逆戻りしたのだ。理由はわからなかった。あの短期間に、逆転時計を使ったわけでもないのに。

状況を受け入れられないままだったものの、わたしは、今度こそシリウスの命を救おうと決心した。そして、魔法省での戦いで、ベラトリックス・レストレンジの呪文をそらし、彼女の脅威を退けるまでに至った。

だというのに、シリウスは死んでしまう。二度目に彼が死んだのは、同じく魔法省で、ヴォルデモートがハリーにかけようとした呪文に身を投げ出した時。そして三度目は、刺客として現れた死喰い人との戦いの中で。四度目は、アズカバンを脱獄したシリウスが捕まり、ハリーが助けようとしたものの失敗してディメンターのキスを受けた。それ以降も、何度もわたしは彼の死に直面することになった。何度も彼が死ぬはずだったところを救い、そしてそのたびに他の方法で死んでしまうシリウスをただ見ているだけだった。

もちろん、こうやって時間が巻き戻されるたびにハリーやダンブルドアに相談しようとしたものの、それを口にしようとするたびにシレンシオをかけられたかのように言葉が出なくなる。怪訝な顔をされながらも、わたしは別の話をするほかなかった。様々な相手に試したものの、誰にも、このことを言うことはできない。

そうして、シリウスが死ぬたびに、わたしは何度も時を遡って、誰にも助けを借りることができないまま彼を救おうとした。しかし、全て失敗し、彼は様々な方法で死んでしまう。そして今回が7回目だ。

わたしは痛む頭を抑えつつ、体を起こして周りを見回した。ここは――どこだろうか。見覚えはあるのだけれど。芝生に手をついて、起き上がろうとする。

「ナマエ!そんなところで何してるんだ!」

すると突然、もう何度も聞いた声が耳に飛び込んできた。

そこには、眼鏡をかけた男の子を中心に三人の、ホグワーツの制服を着た子どもたちがいる。ハリー、ロン、ハーマイオニーだ。

「ハリー…今って何年なの?」

わたしはそう言いながらやっと、自分の体を見下ろした。不思議だ、わたしが意識を失った時は普段着のワンピース型のローブを着ていたはずなのに、今わたしが着ているのはまるで――グリフィンドールカラーの、彼らとお揃いの制服だ。いつの間に着替えたのだろうか。それに、起きたばかりだからだろうか、自分の体に何だか違和感がある。

「何言ってるんだ、ナマエ。今は――」

ハリーがそう言いかけた時だった。ロンがわたしに背を向けて、向こう側を指差して震えている。

「グ、グリムだ!」

その声を聞いて、今がいつなのかわかった。シリウスがアズカバンから脱獄した年だ。

わたしはそれを聞いた途端思い切り立ち上がって、すでにロンを、というよりピーター・ペティグリューを狙って噛み付いているシリウスに向かって走り出した。

「ロン!…ナマエ!何してるんだ!」

ハリーたちの制止も聞かず、暴れ柳を振り切ってシリウスたちの後ろを追った。そうして、ロンを放して動物もどきを解き、どこかぐったりとしているシリウスに思い切り抱きつく。

「シリウス!」

目の前で彼を失うことに、何度遭っても慣れない。ずっと一緒にいたいと願ったのに、シリウスはいつもわたしを置いて、二度と会えない場所へといってしまう。冷たくなったシリウスを抱くのはもうたくさんだ。

シリウスの、わたしよりちょっぴり高い体温を確かめるようにぎゅうぎゅうと抱きしめていると、シリウスがわたしの背中に手を回していないことに気づいた。そして、わたしの腕を遠慮がちに掴むと、わたしをゆっくりと引き剥がして顔を覗き込む。

「すまないが…どこかで会ったことが?」

わたしの顔をはっきり見てもそんなことを言うシリウスに、わたしは思わず吹き出してしまう。

「シリウス、何言ってるの?わたしよ」

そう言っても何も反応がなく、シリウスはわたしを上から下まで見た。腑に落ちないような、一体何の話だとでも言いたそうな顔をして。

「私は今のグリフィンドール生に知った顔はいないと思うのだが…誰かの娘か?もしかして、リーマスの?」

全く似てはいないが…あいつが嫁をもらったなんて聞いてないぞ、なんて言うシリウスに、わたしが呆然とした時だった。

「ナマエ!そいつから離れろ!」

後ろからハリーの鋭い声がかかった。途端に閃光が飛び、シリウスの手から杖が離れる。

「ハリー、お願い、彼に杖を向けるのはやめて。話せばわかるの」

状況を読めないままにシリウスを後ろに庇ってハリーにそう訴えかけると、ハリーは理解できないといった表情でわたしを見た。当然だ、彼は何も知らないのだから。わたしはこの場面を何度も体験したけれど、彼がこう訴えかけたところでシリウスへの疑いを薄めることはないとわかっていた。

「そう言ってくれるのはありがたいが…君はいったい誰なんだ」

シリウスはまだ、そんなことを言う。からかっているの?とわたしが振り返ろうとしたところで、ちょうどリーマスが来たらしく、ハリーたちがどよめいた。

今、一番話がわかるのはリーマスだろう。わたしはそう考えて、リーマスに駆け寄った。

「リーマス、わたしが分かるわよね」

するとリーマスはシリウスに気を取られながらも、眉をあげて答える。

「もちろんだとも、君は”先生”を忘れているようだが」

「何を言ってるの?」

わたしは胡乱な目で彼を見た。リーマスまでからかい始めているの?

この今までわたしがこの場面に現れた時、いつも流れは同じだ。わたしがシリウスを見つけ、再会をお互いに喜び――わたしは違う意味で、だけれど――、それにリーマスも加わる。そうして、ハリーがシリウスの冤罪について理解し、ここの争いは丸く収まるのだ。

だというのに、リーマスはわたしを見下ろして怪訝そうな顔をしている。

「ナマエ、大丈夫かい。頭を打ったのか」

「頭を打ったのはあなたの方でしょう、からかっているの?あなたに”先生”をつけろだなんて」

わたしの言葉に対し、リーマスが口を開こうとした時だった。

「おやおや」

真っ黒な服に身を包んだ、セブルスが現れた。いつもなら、彼がいてもしょうがないのでハリーたちがセブルスをノックダウンするまで待っているのだけれど、今回ばかりは彼だけが頼みの綱だ。彼が冗談を言っているところを、わたしは見たことがない。

「セブルス!彼らに冗談はやめろって言ってよ!」

「セブルスだと?」「「セブルスだって!?」」

セブルスが眉間に深い深いしわを寄せてわたしをギロリと睨むのと、ハリーたち三人が声を合わせてそういうのはほとんど同時だった。

そして、わたしはハリーに手を引かれると「君、本当にどうしちゃったんだ!」と額に手を当てられる。先ほどまでは”親の仇”のシリウスを睨みつけていたというのに、今はわたしの目を覗き込んで、まるでこの上ない”フリーク”を見たような目をしている。

「ミョウジに錯乱の呪文をかけでもしたのかね、ブラック」

セブルスがシリウスに杖を向けてそう言った。もうめちゃくちゃで何が何だかわからない。リーマスはわたしに近づくと、ポケットの中にあったチョコレートをひとかけわたしに差し出して、言い聞かせるように言った。

「いいかい、ナマエ。君はもしかしたらシリウス・ブラックを見た恐怖で混乱しているのかもしれないが――もし彼が君に何か恐ろしい呪文をかけたとしても、僕が解くから安心してほしい。だから一度落ち着いて」

「リーマス、何を言っているの?わたしがシリウスを見て怖がるだなんて。お願いだから冗談はやめてよ」

そろそろ笑えないわよ、とわたしが震え声でそう言うと、シリウスに向かって杖を向けたままのセブルスが遠くから「何か強力な呪文をかけられたに違いない」と呆れたように言った。

「シリウス、なんとか言ってよ!」

わたしが破れかぶれになってそう叫んでも、シリウスは「私は彼女になにもしていないぞ!」と困惑顔を浮かべるばかりだ。

そうしているうちに、この混乱に乗じようとしたのか、ロンが抱いていたネズミがちょこちょこと逃げ出そうとしている。ロンすら、わたしに気を取られてそれに気づいていない。

わたしはリーマスに肩を掴まれたまま、ローブの中から杖を取り出してネズミに向けた。そうして思い切り――この混乱した状況に苛立つ気持ちも多めに乗せて――杖を振る。すると、バチン!と音を立ててそこに小男が現れた。ピーター・ペティグリューだ。

突然そこに現れた第三者に、誰もが目を向ける中、わたしはピーターを魔法で出した縄で縛り上げながら言った。

「シリウス、わたしがあなたの恋人じゃないというなら何だというの?」

「恋人!?」と素っ頓狂に言ったシリウスを尻目に、リーマスはピーターに気を取られつつももう一度わたしに目線を合わせた。

「ナマエ、君はグリフィンドールの三年生、ハリーたちと同級生で僕の闇の魔術に対する防衛術を取っている、そうだろう。そして君は、シリウスとは初対面のはずだ――僕やハリーたちが知らない間に連絡を取っていない限り」

「私はこんな幼い子どもに手を出したりなどしていない!」

リーマスが振り返ってシリウスを胡乱な目で見たので、シリウスは身の潔白を証明するように両手を挙げた。

「グリフィンドールの…三年生ですって?」

わたしが十三歳ですって?そんなバカな――。そう思って見下ろした体は、なんとなく頼りなさげに華奢だ。体をぺたぺた触ってみても、いつもの感触ではない。腕も、筋肉など一つもないかのように薄っぺらい。

「わたしって…もしかして…」

今回は時間を巻き戻すどころか、自分の年齢まで変わってしまったの?!

ペティグリューなんてもう目に入らなかった。わたしは一人一人の目を見て、そうしてあまりのショックで――気を失ってしまった。

七度目の正直
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