※よそ見が下手な二人です
わたしがあの男に恋をしたのはいつからだったろう。同じ寮の悪友たちが、一年生の時からもはや恋慕じゃないのかというくらい執着して彼をいじめていたのは知っていた。
もしかしたら歯を食いしばりながら悪友たちを睨むあの目に、心を奪われたのかも知れない。

「セブルス!今日もいじめられてるの?」

「気安く名前を呼ぶな、近づくな」

今日も今日とて、持ち物を天井からぶら下げられた哀れなセブルスは杖まで隠されたのか、マグル式、つまり飛び上がって教科書を取ろうとしていた。

「なまえって呼んでくれたら、全部取ってあげるし杖もアクシオしてあげるのに」

「いらん!さっさと行け」

よっぽどマグル式がお望みらしい。でも次の授業が始まるまであと5分もない。次は例に漏れずグリフィンドールとスリザリンが合同の魔法薬学の授業だ。確か、セブルスはあの授業が好きだとリリーが言っていた気がする。仕方ない、大奮発だとセブルスの杖を取り寄せると、セブルスはかすめるようにそれを奪って自分の持ち物を杖で呼び寄せ始めた。
全て回収し終えたのか、待っていたわたしを置いてさっさと行こうとするセブルスの隣を無理やり歩く。

「取ってあげたんだから、一緒に教室に行くくらいのサービスはしたらどう?」

隣から大げさなほどのため息が聞こえる。しかしそれ以上の拒絶はせず、むしろ歩くスピードは少しゆっくりになった。こういうお人好しなところも好きなのだ。

「まだリリーのこと好きなの?」

「くだらんことを言うな。黙っていろ」

「間をとってわたしにしたら?一応赤毛だし。目の色も緑のライト当てたら緑だし」

「お前のそれはどこからどう見たって栗色だし、ライトを当てている時点で全く話にならん」

的確なツッコミを律儀に入れなければ気が済まないところも、全て愛おしく思える。ジェームズたちにはブーイングの嵐を受けたものの、ルーピンには「あばたもえくぼだね」と冷静に言われた。

「リリーのどこが好き?」

「いい加減にしろ」

それ以来何も話さなくなってしまった彼は、歩幅を大きくしていつのまにか背中しか見えなくなってしまった。
彼が授業中も、ご飯を食べている時もリリーを意識していることは、リリーの隣にいつもいるわたしだからこそわかることだと思う。わたしも彼をいつも見つめているのに、彼がわたしを見たことは一度もない。
そもそもわたしの名前さえ覚えていないのではないだろうか。憎きジェームズ、シリウスをはじめとしたいたずら仕掛け人たちの名前は流石に覚えているだろうが。

「わたしの恋は前途多難だ…」

「おい!遅れているのになぜ急がないんだ」

わたしがうつむきながらそう呟くと、とっくに廊下の端まで歩いてしまったらしい彼が珍しく大声をあげてわたしを呼んだ。

慌てて駆け寄ると、フンと鼻を鳴らしてまた早足を始める。しかし、わたしが来るまで待っていてくれるところは優しい。

「ねえ、わたしの名前知ってる?」

「みょうじだろう。お前も名前を忘れるほど愚かではないだろうに」

即答で返ってきたことに喜びを隠せないのは仕方ないだろう。セブルスがリリーに片想いしている間に、わたしだってセブルスを好きになっていったのだ。
隣に立つ親友、リリーが恨めしくなったのは幾度もあった。彼にこんなにも想われているのにどうして見てあげないの、と。でもその分だけ、早くリリーに告白して玉砕しちゃえ、という気持ちもある。
相反する気持ちに、これが恋なのね、とこの間シリウスに言ってみたら、うげえと吐く真似をされた。もちろんきちんと仕返しはしたのだけれど。

もうすぐで教室に着いてしまう。二人きりになんて滅多になれないのに、とわたしはため息をつきたい思いだったけれど、前から何度も言った言葉を繰り返す。

「わたしあなたが好きよ、セブルス。あなたが誰をみていようと」

「からかうのも大概にしたまえ」

つれない態度で教室に入っていってしまうセブルスの背中を目で追ってしまうのは当分やめられそうにない。


つれない態度の男の子にぐいぐいいく女の子が好きで、ついついそういう話ばかりが多くなってしまいます。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -