よそよそしい毛布にくるまって、あったかいキスをするような
「うう…起きたくない……」

今は冬だ。
女子寮には暖炉が焚かれているものの、寒いものは寒い。暑さにも寒さにも弱いわたしにはこたえる。

部屋にはわたししかいなかった。寝起きの悪いわたしを見かねて同じ部屋の子達はさっさと朝ごはんに出かけたのだろう。朝はそんなに食欲がないし、もうこのまま授業まで布団にくるまっていよう――諦めだけはいいわたしは頭から毛布を被った、その瞬間。

「ぐえっ!!」

女子としてあるまじき声を上げた。何かの塊が勢いよく毛布にくるまるわたしの上に乗っかったのである。

「な、なに…?」

おそるおそる毛布から顔を出すと、そこにいたのは真っ黒な毛並みをした大型犬だった。こいつの正体が分かっていても、はふはふとすりよってくるわんこが可愛くて思わず抱きしめてくしゃくしゃと撫でてしまう。そうしているうちに感触が変わり、そこにいたのは見慣れた黒髪だった。

「あのねえ、朝一でもふもふのわんちゃんに会えるのは嬉しいけど、自分の大きさ考えてくれる。つぶれるかと思った」

「わかったわかった」

返してくるのはそんな言葉だけで、まだ犬気分が抜けていないのかわたしの髪や首筋に鼻先を近づけてすんすんと嗅いでくる。わたしはこれ見よがしにため息をついて見せたものの、冬だからなんだか人肌恋しくて、この人のツラを被った大型犬、もといシリウスの背中に手を伸ばした。
シリウスは元から体温が高い。最初触れた時熱があるんじゃないかと心配したけれど、シリウス曰く、わたしの体温が低すぎるらしい。その自覚はないこともないけれど。

部屋に誰もいないときを見計らって、シリウスはたまにこうやって忍び込んでくる。女子寮に男子は入れないはずなのに、こんなに規制がゆるゆるでいいのかとは思うけど、わんこは例外らしい。
鼻先を押し付けていたのがだんだんついばむような口づけになり、ほほ、鼻先、おでこと顔中にキスの雨が降ってくる。

「朝ごはんは食べたの?」
「こっちのセリフだ。今日は早めに大広間に行ったのに、いつまで経ってもなまえが来ないから」

それで、そのままここに来てくれたらしい。よく見ればその手には、朝食のパンを取り分けてくれたらしいバスケットがあった。

「ほら。口あけてみ」

片方の手をわたしの冷えた手に重ねて握り込みながら、空いた手を使ってわたしの口に柔らかいパンを押し込む。焼きたてを急いで持って来てくれたようで、それはまだほんのりあたたかく、しあわせの味がした。

わたしがそれを飲み込んだのを確認すると、シリウスはまた顔を近づけてくる。
今度は先ほどの勢いはなく、わたしはそっとまつげを伏せた。こういう時、シリウスはたまに目をつむったわたしにキスをせず「期待してんの?」などとからかうから、油断はできない。
けれど、まだまどろみの中にいるような朝だったせいで、わたしはそのまま眠りにつくかのように目をつむった。

そうすると、まるで初雪に触れるかのような口づけが落ちてくる。シリウスの体温に溶けてしまいそうだ。

「なまえ……好きだ」

何を今更、だなんて考えてしまうほどわたしたちは今まで冬をふたりで何度も過ごして来たけれど、その言葉は何度聞いてもくすぐったい。

そうして、ふたりで毛布にくるまりながら少しばかり贅沢な冬の朝を過ごすのだった。

ただシリウスといちゃいちゃしてるだけのお話。冬は万人が人恋しくなるのでは。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -