ろくでなしラヴァーズ
シリウスはモテにモテる。それはそれは、モテる。中身はあんなに残念だというのに、外側についているのはあの、神様が丁寧に丁寧に造形したと言われても頷けるようなハンサムな顔だ。

小さい頃は「大きくなったらなまえと結婚する」だなんて可愛いこと言ってたのに、今やホグワーツの廊下でシリウスの顔をぽうっと惚けた表情で見上げるレイブンクローの金髪の女の子を壁に追い詰め、やりたい放題だ。

「おい!なまえ!そんなところに突っ立って何してんだよ」

学内での不純な異性交遊を冷めた目で見つめていたわたしに気づいたのか、シリウスはバツが悪そうにそう叫ぶ。レイブンクローの女の子はシリウスがわたしに気を取られているうちに腕をすり抜けて逃げてしまった。シリウスはそれに気づくと舌打ちをこぼし、わたしに近づいて来る。

「あーあ。邪魔するんじゃねえよバカ」

「部屋まで行くのすら我慢できないの?駄犬」

馴れ馴れしく腕を肩に回して来ようとするシリウスをしっしと払おうとするも、めげずにそのまま肩を抱かれてしまう。

「一時は婚約者だった男なのに、つれねえなあ。家出した負け犬は相手しないってか?」

「いかにも悪役みたいなセリフね」

そう。わたしたちは婚約者だったのだ。

小さい頃、パーティーで知り合ったわたしたちはまたたくまに意気投合(幼すぎて、話題は限られていたけれど)し、お互いの家もそれを通して繋がりができた。
家が息苦しい、抜け出したいと漏らすシリウスを、こっそりとパーティーから連れ出してわたしの家の温室へ案内し、二人でお菓子を食べたことをわたしはまだ覚えている。意気投合したのも、この純血の家が自分にとって足枷でしかないということに関してだったのが大きかった。
そうして、親同士の話し合いで将来の結婚が約束されたのである。両親は今までにないほど喜んだ。純血の家にとって、ブラック家との繋がりはまたとない機会である。

成長したわたしは小さい頃にシリウスを連れ出した勇気も削がれ、純血の娘として順当にスリザリンへと組み分けされた。しかし、そんなわたしと違い、シリウスは自分の意思を貫きグリフィンドールを選んだ。

その後、家同士ぎくしゃくはしたものの婚約破棄には至らず一応体面上は保っていたけれど、わたしとシリウスの間には大きな溝が生まれていた。わたしがスリザリンに行ったことが気に入らないシリウスは徹底的にわたしを無視し、女癖の悪さを発揮していたるところで女の子に甘い顔をしているところを目撃した。

そしてついにシリウスが家を出て、婚約も白紙に戻ったのである。婚約がなかったことになると、不思議とシリウスは以前のようにわたしに接するようになった。以前のように、というより、悪絡みしているだけ、とも言えるのだけれど。

「スニベルスは元気か?お前、仲良かったろう」

「セブルスは元気よ。いい加減彼に対する子どもみたいな真似はやめたらどうなの」

肩に乗せられた手を振りほどけないまま、教科書を胸に抱いて廊下を歩く。次の授業は合同だから、彼も目指す場所は同じはずだ。

「スニベルスに情けをかけてやるのもいい加減にしろよ。あんな闇の魔術に囚われたバカ」

「あなたたちが彼にしていることはそこらへんの闇の魔法使いよりよっぽど邪悪だわ」

わかってねえなあ、とくちびるをとがらせたシリウスは、わたしをパッと離して反対方向へと歩き始めた。

「次の教室はあっちよ!」

とその背中に声をかけるけれど、ひらひらと手を振るだけで振り向くことすらしない。わたしはしばらくそこに立ち止まったまま、彼が廊下を曲がるまで見つめていた。

こんな歳にもなって、自分の気持ちに鈍感ではいられない。わたしは彼のことが好きなのだ。小さい頃から、ずっと。
彼は純血の家にとってとんでもないろくでもなしで、実際、わたしの友人であるセブルスに対しても到底許せないようないじめをする。でも、わたしにとって彼は、いつまでたってもきらきらとひかるヒーローなのだった。

全てを投げ出して彼についていきたい。
いや、もし戻れるのだったら、組み分け帽子に頼み込んで、グリフィンドールに入れてもらう。

でもわたしの分岐点はもうとっくに終わってしまっていたのだった。彼とわたしの道は違えてしまった。

とぼとぼと廊下を一人で歩くわたしは惨めだった。せめて、セブルスかルシウスあたりが通り掛かればいいのに。憂鬱なわたしの心を表すように、外は土砂降りの雨だ。

しかし、この時のわたしは知らなかった。
卒業式の日、わたしのヒーローが、固く閉ざされた憂鬱な檻からわたしを攫ってくれることを。


最後が少し唐突な気もしますが、どうしてもこれで締めたかったのでご容赦ください。

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