yes以外言わせないくせに
今日は土砂降りだった。

そんな日に、元々訪ねる人も少ないわたしの家のチャイムが鳴った。

平和とは全くもって言えない時勢であるため、杖を持って恐る恐るドアを開けたわたしの前に現れたのは、珍しくきっちりと髪をまとめ、スーツを身にまとった学生時代の友人だった。

彼が姿を消した、もとい、アズカバンに収容されたのはずいぶん前のことになる。

リリーとジェームズが死んだ、というニュースで気をやりそうになったわたしが、ペティグリューの壮絶な死、そしてそのすべての犯人がシリウスともなれば無理もない話だった。

そうして時が流れ、わたしはひとときも彼を忘れたことはなかったというのに。

あんまりじゃないか。彼は脱獄し、ハリーポッターに再会し、そしてまた檻から逃げ出し、そこまでしたならわたしの元に会いに来てくれても良かっただろうに、彼が来たのはそれからまた一年経った今日だ。

「…何の用」

わたしがこんな風につっけんどんになってしまうのも無理はないと思う。

「久々に会ったというのに、そんな歓迎の仕方はないだろう」

そう言いながら入れとも言っていないのにずかずかとわたしの部屋に押し入り、防水魔法をかけただろうになぜか濡れている服のままソファにどっかりと座る。

少しは大人びたのかと思ったけれど、そういうところは全く変わってないらしい。

「…ダンブルドアから聞いたわ。あなたは無実だと、そう確かな証言をする人がいるって」

「信じていなかったのか?つくづく薄情なやつだ」

眉を釣り上げるふりをしながらわたしが飲みかけていた、少し冷めた紅茶をすするシリウス。

わたしはそれに答えずに、ダイニングチェアに座って紅茶を淹れなおす。

「そういえば、もうそろそろ結婚していてもおかしくない年だろう。リリーとジェームズの子、ハリーでさえもうあんなに大きくなっているのだし。その割に、人っ気のない部屋だな?」

からかうように言うシリウス。その目がわたしの左薬指を捉えたのを、わたしは見逃さなかった。

「わたしが人妻だったら、あなたを部屋に入れることはしないわよ」

わたしは湯気を立てる紅茶に目を落とした。

この人は本当に。

学生時代はジェームズに、そして今はハリーポッターに夢中だ。

わたしの気持ちも知らないで。

物思いにふけっていたけれど、いつのまにか明かりを隠すようにわたしの横に立って影を落としている彼に気づいた。

「どうしたの」

とわたしが言い終わるのを待たずに、シリウスは床に片膝をつく。

そしてわたしの紅茶を奪って机の上に粗雑に置くと、わたしの左手を取って恭しく口付けた。

「何のつもり?」

わたしの手に唇を寄せるシリウスは、元々の端正な顔立ちが際立っていて、ひどい男だとわかっているのに胸がときめいてしまう。

「すべてを失った時、一番に浮かんだのは君だった。
本当は、君が私の冤罪を信じて尽力してくれたのも知っている。
今更遅いだろうが、君に恋人がいないなら私をその幸運な椅子に座らせてくれ」

柄にもなく真摯な目をしたシリウスは、どこから取り出したやら赤いバラの花束を差し出して来た。

「……逃亡犯のくせに」

ずるいのよ。

そんな力のない言葉が溢れるのと同時に、わたしはシリウスの胸に飛び込んだ。


学生時代両片思いのまま卒業してしまい、告白のタイミングを逃してしまった二人がやっと向き合うことを選ぶ話。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -