21
「孝彦さん。」
「・・・・理人は寝たか?」
「はい。」
そうか・・・とソファに座ったまま肩を落とす孝彦。
(年上の男性が可愛くみえるのは、変なことかな?)
「隣に座ってもいいですか・・・?」
「あ・・あぁ・。」
孝彦の横に腰をおろす。少しだけ間をあけて・・・・。
「呆れただろう?」
「いいえ。」
「情けない、理人は子どもなのに・・・。私は最低だな・・・。」
(あれ?この会話・・・・?)
似たような会話した気がする・・・と不謹慎ながらも考えてしまう。
そして・・・思い当たる会話を思い出した瞬間、
「・・・・あはは!」
思わずぷっと吹き出してしまった。
春は慌てて口を手でおさえたが、唇のはしがひきつるのを感じる。
「ご・・・ごめんなさい!!
だって、理人くんも孝彦さんも同じこと言うから・・・あはは!」
え?と春を驚いたように見つめる孝彦。
「やっぱり血がつながっているんですね。叔父と甥ってこんなにも似るんですね。」
「理人も?」
「はい。僕は悪いこだから、孝彦さんに嫌われたんじゃないかって心配してましたよ。」
「二人とも、自分を責めて・・・とっても優しいですね。」
春の眩しいぐらいの笑顔を正面から受け止めて、孝彦は戸惑う。
ましてや、優しいなど言われたことがない。
今まで生きてきて、言われたのは無神経、無表情、冷血・・・・とにかく優しいという言葉とは無縁だ。
「そんなこと言われたことがない。」
「優しいですよ、とっても。」
(優しい・・・・?)
優しいのはむしろ春の方だと孝彦は思う。
いつも暖かい笑顔で理人や優人、そして孝彦を迎えてくれる。
困った時には手を差し伸べてくれる。
「・・・君は、名前のとおりの人だな。暖かくて、君がいないとこの家はとても寒い。君がくるのが、いつも待ち遠しい・・・。」
春がいるだけで、孝彦の心は暖かくて光に満ちていく。
冬の間、春を待ち続ける動物や、花のようにいつも孝彦は待ち続けている。
「あ・・・ありがとうございます・・・。」
孝彦の切れ長の目に見つめられて春は、顔が赤くなるのを感じた。
孝彦は、男の春からみても整った顔立ちで、仕事もできて男の色気を感じさせる。
そんな男性に甘い視線で見つめられて、なんとなく居心地が悪い。
嬉しい気もするが・・・心がざわついて仕方がなかった。
「ぼく!帰ります!!!」
(女の人ともこんな雰囲気になったことがないのに!!)
色恋沙汰には人一番弱い・・・。
こんな時、どういう言葉を返していいのかも分からない・・・。
ノミのような心臓は、煩いぐらいに自己主張するし
顔は茹蛸みたいに赤いし、
息もうまくすえていない気がする。
(こんな情けない姿、見られたくない・・。)
勢いよく立ち上がった春だが、すぐにバランスを崩した。
孝彦に腕を強く引かれたのだ。
そのまま、抱きすくめられる。
孝彦からはスパイシーなコロンの匂い。
大人の男だ・・・。
春とは違う、逞しくて大きくて色気のある
恐ろしいぐらい人を惹きつける大人の男・・・・。
「今日は泊まっていってほしい。
その・・・・明日は私も休みだ。
理人に謝って、理人の好きなところへ遊びに連れていきたい。だが、私は理人が何が好きなのか分からない・・・。」
教えてほしい・・・と耳元で低く甘い美声で懇願される。
春は、ゾクゾクとした痺れを感じた。
「君とまだ一緒にいたいんだ。」
そう囁かれ、春の身体をぎゅっとますます強く抱きしめられた。
(あたたかい・・・。)
孝彦は春を暖かいと言ったが、孝彦こそ暖かいと春は思う。
こんな風に他人と触れたことはなかった。
母が死んでこんなに温もりを感じることはなくなっていた。
(ここにいていいのかな?)
他人なのに・・・。
でも孝彦はここにいてほしいと言ってくれる。
(いいのかな・・・・?)
「僕も一緒にいたいです。」
こんな図々しいお願いが自分の口からでたことに春は驚いた。
何を言っているんだろうか、馬鹿なことを言うなと自分の中のもう一人の自分が騒いでいる。他人のくせに・・・・、家族もいないただ寂しいだけの人間のくせに・・・、なんて図々しいんだろう。
けれど、
「ありがとう。」
見上げた先に嬉しそうに笑う顔をみつけて心が軽くなった。
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