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「・・・どうすればいいのか分らない。」
理人の頭を撫でながら、孝彦は呟いた。
「こんな風に人と一緒にいたことがないんんだ・・・。
母や父と過ごした思い出もない。
どうすれば理人が喜ぶのかも、優人が笑ってくれるのかも
・・・・・
君が側にいてくれるのかも分らない。」


どうすればいい?
向けられる瞳は真っ直ぐだ。

だが、悲しい。

(分らない・・・・。)

孝彦の問いに答えられない自分が情けない。
悲しいぐらいに切ない。

家族というものを知らないから、分らない。
母しか知らない。
物心ついた時、母はもう病にかかっていた。
ほっそりとした・・・骨のような体は、いつも冷たかった。
母の笑顔は好きだったけれど、彼女の目はいつも悲しげだった。

どうして、そんな悲しそうな目をするのか分らなかったけれど
自分が母に悲しみを与えていることだけは分っていた。

だから、分らない。
人は好きだ。
けれど・・・・それ以上は分らない。
ずっと一人だったから。



「・・・孝彦さん。」
でも・・・・
人はこんなにも温かい。
こんなに近くで触れ合うことなどなかったから
今まで知らなかった。

動く鼓動を感じることが
息を吸うその音が
流れる涙の熱さが

全てが愛しい。


それを知ってほしくて、春は右手をのばした。
孝彦の首に手を添え、驚いて顔をあげた孝彦を引き寄せた。

「わぁ!」
理人は背中に伝わる衝撃と暖かさに声をあげた。
春は左手で理人を抱いたまま、孝彦を抱きしめた。
理人を挟んだまま、手をのばして孝彦を引き寄せたのだ。


伝わってくれればいいと思う。


「あたたかいな・・・。」
「はい。」

孝彦は眉をしかめながら、春の背中に手をのばす。
ゆっくりと
こわごわと・・・。

そっと背中に触れた孝彦の手に少しずつ力がこもっていく。
「壊れないだろうか・・・。」
「壊れませんよ。」
答えた声が震えていた。
「たかひこしゃんは、消えちゃわない?」
「消えない。」
「はるちゃも?」
「ここにいるよ。」

手に入らなかったものが多すぎて、今が信じられないのは

みんな同じ。







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