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「おかしくねーよ・・・。」
多分な・・・と嶋田は眉をしかめて笑った。
表現できない複雑な気持ちがそのまま顔にでてしまう。
「なんだ、その変な顔は。」
もごもごと口を動かす孝彦がただの男に見える。
隙のない完璧な男がただの・・・・
間抜けな男に。
「色んな感情を味わってみるのもいいかもな。」
弁当の中の玉子焼きは、・・・・懐かしい味だった。
込められた思いが伝わってくる様な・・・。
きっと目の前の男には、懐かしいなどと感じることはないだろう。
父や母の思い出も家族の暖かさも知らずに育った男だ。
嬉しさばかりが先走って、他のことには気づかないだろう。
どれだけ孝彦のことを考えて作られているかなどは想像もつかないはずだ。
彼には、そこまで導き出す経験がないのだから。
そう彼の感情はひどく単純だ。
「・・・好きって事は、そんな簡単な事じゃないぞ?」
男だとか、女だとか、そんな事は関係ないのだ。
欲しくても欲しくても手に入れることが叶わなかったから、放り出してしまった感情だ。諦めて、いつの間にか忘れされてしまった思い。
それがまた、孝彦の中で燃え上がるのなら
それは
とても辛い。
「よく分らない。」
そらみた事か・・・嶋田は苦笑して、腕を組んだ。
下をむいてしまったのは、孝彦を見ることが出来なかったからだ。
どうする事も出来ない自分が無力で情けなかったからだ・・・。
「でも
側にいてほしいんだ。それでは、駄目なんだろうか?」
『約束ですよ、孝彦さん。
今日は早く帰ってきて下さいね。
三人で待ってますから・・・。』
孝彦の耳に春の柔らかい声が聞こえた気がした。
「今日は早く帰る。」
その言葉に嶋田は笑い、孝彦の肩を叩いた。
「分かったよ、手伝ってやる。」
お前の初めての本気の恋もな。と嶋田は声をあげて笑った。
それまでの悔しそうな顔ではなく嶋田らしい快活な笑顔。
「俺はお前の従兄だからな!」
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