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「春くんはすごい。」
色鮮やかな弁当を孝彦は意気揚々と見せびらかす。

「このご飯にはじゃことしそが入っていて、玉子焼きはわざわざ鰹節でとった出汁入り。唐揚げは味が染み込んでいる上にゴマ入りだしこの…」
「あー!!分かった!分かった!!その春くんとやらが料理上手な事は分かったから!!」
「嶋田。」
孝彦が突然、鋭い声で呼んだ。この低く厳しい声は仕事で何かミスを……
「春くんは料理上手なだけじゃない。掃除も育児もアイロン掛けすら完璧だ。」

真面目な顔で訂正され、嶋田は頭が痛くなった気がした。





「で?その春くんはお前の我が儘に付き合って毎日頑張ってくれている訳か。」
唐揚げを頬張りながら孝彦が頷いた。

こちらが真面目な話をしているというのに!なんだ、この間抜けな男はっ!
嶋田は悔しくなり、孝彦の弁当から玉子焼きを手でつまみ、食べてやった。

「うまい……。」
出汁がきいて驚くほど美味い。あまりの美味しさに他のおかずも食べたくなるほどだ。

「やらんぞ。」
憎らしい男だ、と嶋田は孝彦を睨みつけた。


「で、23歳の男の子に育児まで任せて毎日何不自由なく過ごしている…と。」
またもや孝彦が頷いた。

(コイツってこんなキャラだったか?)

嶋田は首を捻った。

「嶋田……俺は好きなのかもしれない。」
孝彦はアイロンのかかった布で弁当を一緒懸命包んだ。

以前、弁当の包み方が分からなかった孝彦は帰宅すると春に弁当を裸のまま差し出したことがあった。

朝は綺麗に包まれていたのに……。

春に何も出来ないと思われたくなかった……。
申し訳なさと情けなさで謝罪することしか出来なかった孝彦に春は嬉しそうに笑った。


『包もうとしてくれたんですね。』
端がぐしゃぐしゃになった布を見て頬を緩めていたのだ。
事実、孝彦は布の端をもって何度も挑戦したのだが……春のようにうまくは出来なかった。

『孝彦さん、見ていて下さいね。』
きれいに包むにはコツがあるんですよ、と優しく教えてくれた。

春は出来なくても馬鹿にせず、いつも優しく教えてくれる。

洗濯機の回し方も
包丁の握り方も

丁寧に教えてくれた。


親から愛情を向けられた事のない孝彦にとって春は理想そのものの母親だった。

「それだけじゃない。何にでも一生懸命な姿が眩しいし、春くんが寂しそうな顔をするとどうにかしてやりたくなる。」

男の子相手におかしいだろうか?

孝彦は嶋田を見た。




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