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春の生活は変化した。


早朝に孝彦のマンションにやってきて家事をこなす。出勤した佐藤に優人を任せて、理人を保育園に連れて行くのも春の仕事だ。そして花屋で働き終わると真っ先に理人を迎えに行き、マンションにいる佐藤とバトンタッチする。



「頼まれてた食材、ちゃんと買っておいたからね。」
玄関の扉を開けたまま、佐藤は振り返った。
「いつもありがとうございます。」
「いいのよ!よい週末を!」
春は笑いながら気をつけて、と佐藤に手を振った。



「明日は土曜日か……。」

先程の佐藤の言葉で思い出した。最近はバタバタしすぎて曜日を確認する余裕もなかったからだろう。

「あした……おやしゅみ…」
春の足に腕を絡ませた理人が見上げていた。
「そうだよ、だから今日はいっぱい遊んであげる!」
「……ほんと?」
大きな目が輝いた。期待に満ちた輝きに胸が痛くなる……。
「今日は理人くんが寝るまで一緒にいるよ。」


明日はきっと一緒にはいられないから……だから、今日だけは。


明日は土曜日。
何もなければ孝彦も休日だろう。
……休日に他人の自分がいたら落ち着かないかもしれない。
だから明日はきっと一緒には過ごせないだろう。
孝彦がいるのなら、春は必要ないはずだ。

(僕だけ他人……)
孝彦と理人たちは甥と叔父の関係だ。
不器用だが優しく一生懸命な孝彦なら、きっと近い未来に本当の親子のようになれるだろう。



そうしたら



きっと…



(僕は必要なくなる……)


「あー!」
俯いていた春の頬を優人がペチペチと叩いた。
必死で手を伸ばしている姿に胸が締め付けられ、腕の中の優人をぎゅっと抱き締めた。


今はまだ満足に動けない優人もすぐに大きくなる。
言葉も覚えて理人や孝彦を呼ぶようになるだろう。
でも理人のように自分の名前を呼んでくれることはないかもしれない。

そう思うと辛かった。

そして



何より













「はるちゃん?」
春は不思議そうな理人の声で我に返った。

「あっ!ご飯を作らなきゃ!理人くん、優人くんを見ててくれる?」
「うん。」

慌てて思考を振り切って台所に向かった。






(孝彦さんの側にいられなくなる事が辛いだなんて……。)

慣れない手つきでオムツを変える姿が

子どもたちに一生懸命向き合う姿が

嬉しそうな顔が

大きな背中が


『君にこれからも会いたい』

熱い目が
声が脳裏に浮かんで春を苦しめる。


理人も優人も大好きだ。



でも


孝彦はそれとは違う。





違う。









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