いち図書室にある一冊の本を読む子がいた。その本は古いようで色あせているのだが、その子の顔はどこか楽しそうだった。 「やっぱり素敵だなー」 「何が?」 いきなり声がしたので思わず飛び跳ねた。第三者が彼女を見たらかなり変だったかもしれない(汗) しかし、どこから声がしたのだろう…? 「あぁ、こっちこっち」 「ん?」 肩をつつかれ、後ろを振り返ってみれば…思わず思考停止 同じクラスの鳳長太郎が背後に立っていたからだ。 「おっ鳳さんか。驚かさないで…(汗)」 「ゴメンゴメン。…珍しいね、こんな所に来るなんて。ここ余り人が借りないのに…」 「そう言う鳳さんも珍しいと思う。」 「あはは!ちょっと気になってね。ねぇ、何読んでたの?」 「古今和歌集。」 素っ気なく行ってしまう。実はあまり彼等…テニス部には関わりたくはない。 うるさいのは、幼なじみで十二分。 「すっごいの読むね…どうしてそんなのを読んでるの?」 「だってー… この和歌集、ううんこの和歌たちすっごい素敵なんだよ!?別名『続(しよく)万葉集』で、まさに平安中期を代表する歌風だし“もののあはれ”だし、特に六歌仙の小野小町なんかすっごいんだよ!?絶世の美女とも世界三代美女の一人って言われてるし、歌風なんか情熱的で、繊細かつ技巧的で、女の子の心情が切々と伝わるしね、恋っていいなーとも思うんだよ!!しかも小町さん、能の演目である『通小町』に『卒塔婆小町』、『関寺小町』になっていたり、伝説の百夜通いも切なくって素敵!あっこれ知ってるかな?小野小町ってね、小野妹子を子孫とする小野篁の確かー…篁の息子が良真だからー…そう!孫にあたいするんだよ!!」 いきなり食いついてきた事に驚きを隠せない鳳。そんな姿は鳳にあの噂は本当のようだ、と思っていた。 はっと時間を見ればすでに五時過ぎ。サァーと青ざめていった。 全く。表情の激しい。 「ごっごめん鳳さん!これ、返してくれると助かる。それじゃあ!」 押しつけて図書室から出て行った。 「結構面白いんだ…みずきさん。」 バタバタと走っていく彼女の姿を鳳はただ見ていた。 (1/4) 前へ/次へ 栞を挟む |