よん


「鳳くん、だったね。ゆっくりしていきなさい。」
「あっありがとうございます!」

思わず肩から飛び上がった。まさかお茶まで出してくれるとは。
おやおや、なんて言って朗らかに笑うみずきの父はとても穏やかな人であった。テーブルに山ほどあった本を適当にどかし、三人は席に座っていた。

今、授業平気なの?
あと1時間後に6限ははじまるかな。
ゼミの人達?
そうだね、もしかしたら来るかもね。
わぁ、時間合えば会えるかな?
時間が許してくれたら、だね。


なんてほのぼのと話す鷹狩親子を前にして鳳は固まっていた。話が身内すぎて分からなんだ!

ふと鷹狩親子を見やると、似ているなんて思ってしまった。みずきが中学生なのに父親がかなり高齢とは思うが笑った目元がそっくりだったのだ。
あとは雰囲気だろうか、なんとなーく二人の醸し出す雰囲気が似ているのである。


「そういえば今日レポートがあったみたいだが、間に合ったのかい?」

またトリップしてしまったみたいだ。急いで我に帰るとコクコクと首を縦に揺らす。どこぞの首振り人形だ、なんて思ってしまったがこの際置いておこう。

「平将門について調べてました!」
「お、神田明神のか。」

みずき父の目が少し光った気がしたが気にしないでおこう。


「それなんだけど、お父さん、本むっちゃ助かりました。ありがとうです。」

みんなお礼ゆってたと言いながら、鳳の隣に座っていたみずきが例の紙袋を取り出した。うん、いと重し。
受け取ったみずき父は受け取ると苦笑しだした。

「かなり重かっただろう?古い本も何冊かあったしね。」
「いえ、筋トレと思えば平気でした。」

そう言えば男の子は凄いね、と笑ってみせてくれた。



あ、この笑顔みずきに似てる。













「・・・さてみずき。謝りたい事があるんだろう?」

鳳がだいぶ解れた所で急にこう切り出した。隣にいたみずきは面白いくらいに肩を飛び上がらせた。
いよいよ、懺悔の時間である。

「あー、えっと、その、」
「うん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、一冊欠けた状態で返ってきました。」


目を泳がせたみずきはそっと例の一冊を父の前に見せた。
その本とは『 我が国に於ける星の信仰( 金指正三著/森北書店/1943)』という日本宗教史に関する一冊である。
どきどきの瞬間である。







「あー、これねぇ。」
「あー、あの、鷹狩さんは学校でもかなり申し訳なさそうにしていましたし、反省はキチンとしていますよ!」
「うん、鳳くんは正直者なんだね。」

それは良い事だよ、と笑ってくれたのだが心なしか目が笑っていない様に見える。

「あーあー、これは見事に破損しているね」
「うっ」
「まあ何とかなるかな?」

え、とみずきが顔を上げるとみずき父は溜め息を深く吐いていたがそこまで怒っている様に見えなかった。


「え、お父さんいいの?」
「被害はそんなを無いみたいだしね。それに壊れてしまったのなら、しょうがない。・・・まあ考古学資料だったら怒っていたかもしれないね。」
「(坂下くんこの本でありがとう!!)」

首一枚、ぎりぎり繋がったみずきであった。
ちなみに坂下くんとはこの本を破損してしまった張本人である。なんでも甥っ子に玩具にされかけたとか。


その後、先ほどの朗らかさに戻ったみずき父と少しばかり話した後、部屋にやってきた教授らしき人にみずき父が連れて行かれたため、これでお開きとなったのである。
その帰り道、みずきを見るとホッとした様に肩の力が抜けていた。

「・・・鳳くん、ありがとうね、本当に。いやマジで」
「いいよ、そんなにお礼言わなくても(汗)」


それに俺の方が楽しませてもらったし。
なんて言うとみずきは照れくさそうにはにかんだ。実際、みずき父の話は日本史の山口先生が言わない様な深い歴史の話をしてくれてとても楽しかったのだ。
それにみずきの焦った一面や嬉しそうに笑う一面、父の前で見せる気が緩んだ顔を見れて鳳としては大満足だった。
嬉しかった。好きになった子の一面をもっと知ることが出来たのだから。


「鷹狩さんは歴史好きなのって」
「うん、ほとんどお父さんの影響かなー」



お父さんはね、考古学を中心に研究しているの
じゃあ、多忙なのは発掘があるから?
そうなの!なんか仲間が各地にいるみたい
凄いよ!発掘することで世界を平和にする一役かっているんだね
…鳳くんの基準がちょっとわからないな…





そう話している二人は中々お似合いな二人組だと、近くにいた人は語る。







後日、山口先生に再提出を言い渡された女生徒が一人いたそうな。
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