なな

跡部の顔が引きつるという珍事件の後、一行はまた移動していた。
鳳がまた怖い所?と涙目でみずきやまどかに聞いているが問題ないという問答がさきほどから繰り返されている。無理もない、今の鳳は平将門のオカルト的な怖い所を知ってしまった為、平将門=ホラースポットという方程式が出来ているのだから。

「鷹狩。」
「・・・あい」
「やり過ぎだ。」

日吉に言われてしまった。


さて、今度は所変わって神社である。

「さぁー!やってまいりましたよ神田明神!!あ、写真バンバン撮っていいからね!」

(もの凄いいい)笑顔でみずきは境内を歩いていく。その足取りはしっかりした足で本殿に向かって歩いていく。
「鳳くんは神田明神初めて?」
「うん・・・初めて来たよ・・・」

鳳が興味深々といわんばかりに周りをきょろきょろと見廻す。
なんせお江戸の三大神社の一つである神田明神の社は朱塗りの社殿なのである。しかし朱塗りの社殿は探せばあるのになぜ鳳はこんなに目を輝かせているのだろうか。
もしかしたら鳳はそんなに神社に参拝したことがないのかもしれない。だから物珍しさも相成っているのではないか、そうみずきは推測する。

「さて鳳くん。神田明神は華の江戸三大祭の一つ、神田祭が行われる神社です。それでもって御祭神は三柱いてね、一ノ宮が大己貫命(おおむなちのみこと)、二ノ宮が少彦名命(すくなひこなのみこと)、そして三ノ宮が平将門なんだよ。」

びくりと鳳の肩が揺れた。

「・・・え」

え、また、あの怖いあの人ですか、え、え

脳内で混乱しているのか鳳は石化したままである。
それを見たまどかは深く息を吐くと何も持っていない方の手で鳳の背中をひっぱたいた。
そりゃもういい音を立てて。

「いっ!?」
「なっさけな!!ガタガタ震えてちゃあ何も進めやしない。」

そういって鳳からカメラをブン手繰ると社殿の写真を撮り始めた。
どうやら鳳の態度に苛立ちを募らせていたようである。

「あ、まどか。」
「まあ想定内だったけどな。」


まどかの行動に特に何も言わず二人は本殿に向かって手を合わせた。

「鳳くん、気にしなくていいよ。まどかはせっかちな所があるだけだから。」

鳳にそう言い聞かせ、境内を歩きながらみずきは鳳に話し始めた。

「神田明神の始まりは730年出雲氏族で大己貴命の子孫・真神田臣(まかんだおみ)によって創建されたの。江戸屈指の神社になったのは徳川家康が関与しているんだよ。」
「なんで徳川家康?」
「関が原の戦いの時に勝利祈願の祈祷をしたの。そうしたら慶長五年九月十五日の神田祭の日に勝利して天下統一を果たしたんだ。それ以降家康さんは神田明神を手厚く信仰するの。江戸時代の神田祭は天下祭りとも称されて経費を出したらしいからその深さは伺えるよね。そんでもって家康さんは神田明神の場所を今の場所に移行するんだけどね、ここは江戸城からしたら鬼門に値する方角なの。関が原で勝利に導いてくれた神社に、「江戸総鎮守」として将門さんに江戸を守ってほしいと願ったんじゃないかなと私は推測するよ?毎年江戸っ子たちは、旧暦六月十五日と九月十五日が近づくとそわそわして落着かなくなったらしいし、 神田祭りの山車や神輿の巡行に活気があったのは、常に反骨精神を誇りに生きる江戸っ子の将門信仰によるものであったから。だからこそ明治に入って将門さんが神田明神から干されたときは皆さんその年の神田祭の準備をボイコットして、寂しいお祭りになったらしいし。あ、将門さんが干されたのは天皇中心とした国作りをするときに天皇に弓引いた人が江戸総鎮守にいちゃあ駄目だ、という理由らしくて、でも昭和59年にはまた合祀されたんだって!」

声を弾ませながら語るみずきの情報量には舌を巻かざる得なかった。
それまでに凄いのだ、何も見ずにここまで話す彼女の姿が。
ここまで聞いているとふと鳳の中で疑問が沸きあがった。何故徳川家康は神田明神に場所を移動してもらう位に平将門に力を借りたかったのだろうか。
それをみずきに告げるとキラリと目を光らせた。

「ここからは私の推測なんだけどね、二つ考えられるよ。有力な説は家康さんが将門さんを恐れたから。将門さんは日本三大怨霊にランクインしてる人だから恐ろしい力を崇めることで江戸を守ってもらおうとした説。だから鬼門に神田明神を移し旧神田明神跡に首塚を祀ったんじゃないかって話。」

確かにネットを検索するとそういった項目は多く、そういった考えがみずきの言うとおり有力である。日吉を見れば同じように頷いているのが見えた。

「もう一つは関東の独立を考えたから。将門さんは貧しい関東地方を慮って関東を独立させようとしたの。平将門の乱がこれに値するはず。そして家康さんは平野である関東に移動させられた。けどそれは開墾・発展の余地があった。チャンスだったんだよ。関東を舞台に旗揚げした武将は歴史上に三人在るね。鳳くん、挙げられる?」

「え・・・源頼朝と徳川家康・・・・・・・平将門?」

「ピンポーン!大正解!!基盤を作ったのが将門さん、証明したのが源頼朝、安寧を築き上げたのが家康さん。こう考えると武将によって歴史の拠点が京から江戸へ移動しているのがよくわかる。もし明治天皇が京都をそのまま首都にしたのなら東京はそんなに注目されなかったかもだけど、長い年月をかけて武士が見向きされなかった関東をここまで発展させたんだよ。凄いと思わない?」

だから歴史は侮れないよ!









それからしばらくして鳳は家へ帰り、急いでレポート作業に取り掛かった。
みずきが教えてくれた「平将門」は恐ろしい人だと思った。だが神田明神でのあの話を聞いて改めて考えた。「平将門」の怖い面と凄い面は確かに表裏一体であった。
それでも「平将門」は江戸の人々に篤く信仰され、今でも畏怖されながら篤い信仰を一心に受けているのだ。
考えすぎかもしれないが、平安時代に平将門が親皇を名乗らなければ東京は今も寂れた田舎であったかもしれないのだ。そう考えると「平将門」の功績は称えられるものなのではないか、そう考えた。
考えをまとめながらぺたぺたと写真を貼っていく。
後から知ったのだが、写真を貼ることで少しでもレポートの枚数を浮かそうという考えだったらしい。

ちなみに書く順序も教えてもらった。これでレポートは完璧なはず。


「・・・終わったーーーーー!!!!」


時計が十二時を指す頃、やっとレポートを終わらすことができたのであった。





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