さん

「・・・どうも」

顔が引きつっている気がするが、軽く会釈すると、慈郎は嬉しそうに笑った。
その輝くような笑顔といったら。みずきは頬を緩んでいくのを感じた。

慈郎自身は悪くはない。こんな可愛らしい先輩が学校に在籍しているのにちょっとだけ嬉しく思うのだが彼の肩書きがあの「テニス部正レギュラー」というのが問題なのである。

みずき自身は被害に遭っていないので詳しくは分からないが、どうやらテニス部のレギュラー陣にいい顔をすると制裁という恐ろしいものが待っているそうな。
制裁をするのはファンクラブという非公式団体で、敵に回せば学園全ての女子を敵にまわす事と同義だとか。
「みぃちゃんは当てはまらないって知っているけど、でも!気をつけて!!」と1年の時仲の良かったクラスメイトの女の子達に真剣な面持ちで言われたのが強くみずきの記憶に残っているのだ。

故にみずきの中でテニス部=学園生活終了、という方程式が成り立っている。
(日吉?どうやらファンクラブの会長様が日吉、みずき、まどかの仲を知っているようで怖い事はされていない)

「君、難しいの読んでるねーシキネンセングウってなーに?」
「へ?ご存知ないのですか?」

慈郎の言葉にみずきは目を見開いた。
みずきの様子に気付く事もなく慈郎は話を続ける。

「うん。だって普段こんな本読まないC〜それに俺伊勢神宮?ってよく知らないC」

それよりテニスだC〜と笑う慈郎。
だが気付いているのだろうか?みずきの表情が一気に変化した事を。
・・・ちなみに、彼女は伊勢神宮と式年遷宮については結構知っている。古事記や日本書紀で出てきたりするし、日本史で覚える『延喜式』にも乗っている。

「・・・先輩。」
「ん?」

にっこりと笑ってみせるみずき。そして慈郎は何故か寒気がした。


ぐわし


瞬間、慈郎の肩を掴んだ。そりゃもうぐわし、と

「え?」
「な、ん、で、伊勢神宮を知らないんですかああああああ!!!!!!!」


え?あれ?へっ?

慈郎はいきなり肩をつかまれ、吠えられたことに動転していた。見た目大人しそうな子なのに、なんだこの変わり用は。

「いいですか!?伊勢神宮・・・正式名称『神宮』は古くから『お伊勢さん』と呼ばれる位親しまれている式内社の内最高位を誇る神宮です!!江戸時代の文化で『御伊勢参り』とかありましたでしょう!!それに日本の天津神をまとめる神様、太陽の神様である天照大御神(あまてらすおおみかみ)が祀られている場所ですよ!それを知らないって貴方は!!」
「え?お伊勢参り??」
「正確には伊勢神宮は伊勢神宮には天照大御神を祀る皇大神宮と、食べ物の神様であります豊受大御神を祀る豊受大神宮の二つの正宮がありるんです。一般に皇大神宮は内宮(ないくう)、豊受大神宮は外宮(げくう)と略されて呼ばれてます。摂社はおよそ125も存在するんです!ただの神社ではないんです!それに天照大御神自体超有名ですよ!?天皇家の氏神だし神話のお話の『天の岩戸隠れ』とか、伊邪那岐命の黄泉の国へ行った穢れを祓う為に禊をして、お生まれになった話とか!知らないって言わせませんよ」
「え??そんなに有名なの?」
「あっっっっったりまえです!!!!伊勢神宮の歴史はものすごく古いんです!約2000年ですよ?2000年!!つーか日本書紀の垂仁天皇紀に載ってます!垂仁天皇の皇女、倭姫に3種の神器である八咫鏡等を託して天照大御神の落ち着き先を探させたことが始まりまです。倭姫は大和、伊賀、近江、美濃と巡航して垂仁天皇二十五年に伊勢にきて天照大御神の神託をうけ、斎宮を五十鈴川のほとりに建てたのが伊勢神宮の始まりです。そして式年遷宮は神宮の二十年に一度の大祭ですよ。おそらく神嘗祭に匹敵する位重要な催しです」

ここで一区切りついたのか、息を吐くみずき。
ところで慈郎の方を見やれば彼女の勢いにのまれたのか、目をぱちくりとしている。それも仕方がないだろう、神嘗祭や式内社など聞き慣れないワードが出ているのだ。頭の上にハテナマークがついても可笑しくない。

「…君、すんごい詳しいね…」

すごい情報量だと慈郎は思った。
いきなり肩を捕まれたこと、そして訳わからない単語やら説明に驚かされっぱなしである。

ふと、彼女が青ざめた。何故だろうと首を傾げる慈郎にみずきはパッと手を放し、物凄い勢いで慈郎から離れた。

「すっすみません!つい熱くなっちゃって…」

あれは熱い、というより凄んでいたC

なんて心でツッコミを入れてしまった。




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