さん

自分の名を呼ぶ声がした方向に顔を向ければ幼なじみとその後ろには多分部活の先輩であろう方々の姿。


「赤也…?」


不思議そうな顔をしてこっちに寄って来た。


「こんな時間までめっずらし。てか、眼鏡かけてねぇでどうしたんだよ。」
「あはは…聞いてー。さっき地震があったでしょう?その時にクラスメイトが庇ってくれたのだけど…私やその子の身代わりかのように眼鏡が大破ー…」


肩をすくめながらみずきはあははと哀愁を漂わせながら笑う。むしろ笑っていなきゃなんか終わりだ。

赤也はふ〜んなんて相槌を打ちながら先ほどの自身を思い出す。
確かにあの地震は大きかった。けれど地震よりも部長が恐ろしかった。
…というか震度4だったよな?それで本棚が倒れるなんてどんな耐震してんだ?氷帝。


「…お前、眼鏡なくって平気か?」
「家まで帰れたことが奇跡ですが何か?」



そう話している幼なじみ二人を見て置き去りにされている丸井と柳。


「ほえー。赤也…あんな子と仲いいんだなー…な、やな…柳ぃ!?」


驚く事なかれ、柳は獲物を捉えた目をしながら光の速さでノートに何かを書き綴っていた。


「ふむ。こんなデータが取れるとはな。」
「マジでこえーよぃ…」


怪しい笑みを浮かべる柳を見る丸井は本気で柳が畏ろしいかったとか。
現にガタガタ震えている。


「おーい赤也、その子とはどんな関係なんだよぃ!」


気を取り直して赤也にそう言う丸井(じゃねーとマジでこえーよ!!)。
丸井の声に反応したみずきは丸井の方を見れば自分が知らない者が二人。制服から見て赤也と同じ立海の人だとわかる。


「ねぇ。あの人達誰よ。」
「部活の先輩。だいじょーぶだって!!いい人達だから!!」


にかっと笑ってみせる赤也を見て思わず吹き出してしまった。
赤也のその笑顔がどれだけ先輩方が好きなのかが一目で解ってしまった。それでいて、ものすごく可愛かったのも理由の一つだ。


「…なんで笑ってるんだよ。」
「だって可愛いんだもの!!」
「おーい赤也ー」
「あー丸井先輩。こいつ俺の幼なじみです…って柳先輩何書いてんスか!?」
「いいデータだ。」


…ご満悦な柳蓮二であった。

そんな柳にどん引きまではいっているのか知らないが顔が引き攣っていますよ、お二人さん。


「えーっと…」


苦笑混じりに柳と丸井を見るみずき。
悪い人じゃないはずだ。多分…


「初めまして。このバカ也の幼なじみです。いつもバカ也がお世話になっています。」


ぺこりとお辞儀をして挨拶をするみずき。さっさと家に入ろう、でもって早く歴史番組見よう、なんて思っているのか足早に去ろうとする。
今、彼女の脳内はそれしかないらしいが、赤也が阻むように腕を掴んでいるではないか。


「…何よ。」


ジトリとみれば負けじと睨んできた。


「おいみずき。バカ也ってなんだよバカ也って!!」
「え?なによ、バカと赤也をもじって“バカ也”。赤也の説明に充分でしょ?」
「一言多いんだよ歴史オタク。」
「黙れvテニスオタク。」


バチバチバチ…

二人の間に火花が飛び散っているのが見える。


「落・ち・着・け!!」


丸井が二人の間に割り込む。
柳も参戦して赤也に諭し始めた。

「お前も赤也も落ち着けよぃ。…えーとっ…」
「あ、名前言っていませんでしたか?」


そーそーそうだぜぃ!!と大げさなほどに頷く丸井。
瞬間、みずきはかたまった。

名を言うのは自分がこういう者であると伝える重要な言の葉である。
何で忘れてた自分。

でも…


「…確か名は人を一番に縛る呪だし陰陽道だし私無意識に言わなかった?いやいや現世(うつしよ)では幼名や本名とか源氏とかほとんど無いものだし。あ、でも……ってダメダメ偏見はいけない。そういえば宗教学的にはどうだったっけって最近全く宗教論読んでない!たいへん!お父さんがオススメしてくれたのに!!そういえば神道考古学がどーのっていって「なに暴走してんだよぃぃぃぃっっ!!!!!!!!」・・・あ。」


しまった、ついうっかり。










「先程はすみませんでした(汗)。私は鷹狩みずきと申します。氷帝学園中等部の二年です。」
「こりゃまたご丁寧に。」


ぺこりと丸井までも会釈しているこの図。なんだかシュールである。


「鷹狩か。覚えておこう。」


赤也を諭し終えたのかまたノートを片手にみずきをみる柳。
解放された赤也はというと、げんなりとやつれていた。(言い過ぎだ。)

ふと何か思い出したように顔を上げる。赤也に時間を聞けばさあっと化を色を変えた。


「赤也のっっバカーーーーーーー!!なんで早く言わないの!!」


なんていいながら思いっきりなにかの分厚い本を投げつけた。
これが世間一般でいう八つ当たり。 
でもそんなの構ってられない!と言わんばかりに自宅の門を飛び越えて(普段は使わない運動神経)、玄関の手すりをがしっと掴むとこちらを振り返った。


「ごめんなさい!私めはもうおいとまいたしましょう…てなんか山上億良みたい…まぁそんなわけで!!」


そういうとみずきはバタバタと家の中に入ってしまった。


「…行っちまったぜぃ。」


まるで台風のようだった。


「何だったんだ?」


柳も驚いたようにノートに書き込むのを止めた柳。


「いってぇ…」


顔面に本が直撃した赤也。その顔は見るからに痛そうだ。


「なー何の本投げつけられたのか?」


ふと思ったのか、赤也も落ちている本を拾って見て見やる。




『諏訪大社 謎の古代史』(作者:清川理一郎)




えーっと、なんと言うべきなのだろうか…


「えーっと、柳先輩、今日って何曜日でしたっけ?」
「…解ったっスよ。アイツが血相を変えた理由…」


何故か頭を抱えた赤也。一体何故なのか。
赤也は呆れた顔で話し出した。


「あいつ、昔から歴史や不思議なものが大好きなんすよ。」
「へぇー納得。」


だからこんな本読むのか、なんて丸井は呟いた。
柳はそうか。と言いながらノートに書いている。


「…で、今日は歴史番組があるんですよ。」


「「だからか。」」




先輩二人の声が異様にハモった。




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