nocheー夜ー27/7



どれほど時間がたっただろうか。
ある小説の一文で『本来は数分しか経っていないのに数刻も経っていると思う』という文を見た気がするが、今はその一文を利用させてもらおう。

墓所内はアクマの屍骸で埋め尽くされており、どれだけいたのかが想像できる。
有毒ガスを放ちながら霧散していく屍骸を見て息を吐くアレン。みずきはただ静かに刀身を鞘に収める。
いま、ここに立っているのはアレンとみずきの二人だけだ。

「みずき、怪我してませんか?」
「・・・平気です。お気になさらず。」

そういって団服の裾で顔をぬぐう彼女はアクマの返り血で真っ赤に染まっていた。
その姿を見るとアレンは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

実は戦闘中ほとんどのアクマを屠ったのはみずきなのだ。

あの時、アレンを狙っていたアクマは細切れになり、銃声がしたと思えば蜂の巣になったアクマがいたり、気づいたら大量にいたはずのアクマはめっきりと減っていたのだ。
そんな芸当ができるのは一緒にいたみずきしかいない。タネは不明であるがおそらくイノセンスの能力であるのは確実。いったいどんな能力なのだろうか。

また、みずきの戦い方はリナリーとは違った華麗さと危惧を感じた。華麗だと言ったのは攻撃の流れがスムーズで綺麗な形をしていたのだ。危惧を感じたのは彼女自身がかなり無理をしている様にみえたからだ。言うならば「命を削る」様な、そんな戦い方。
だって何度自分を庇って迎撃した。何度すれすれに避けた。
むしろ死ななかったことが奇跡、そう感じてしまうほどに無理をしている様ば戦い方だったのだ。

「エクソシスト様、お怪我はなくて?」
「・・・えぇ。おかげさまで。」

よかった。そういって安堵したように顔を緩めた。




・・・・・・・・・。




「みずき。今笑いました?」
「何のことでしょう?」

ぷいっとそっぽを向かれたが、一瞬だけみずきの目が見開いて驚いた顔をしたのをアレンはあしっかり見ていた。
なぜ驚いたのだろう。表情を読み取ったことを驚いているのだろうか。
本当のことはわからないが、とりあえずみずきが表情を出してくれたことにほっとした自分がいる。

「ー・・・先程の話ですが。」

いきなり話を切り替えたみずきは、ついとある方向を指差した。つられてアレンも振り向くとビシッ硬直した。
どうして何も考えずに振り返ったんだよ僕!!

みずきが指した方向にはぼんやりと青く光っている、まるで月見草を具現化した様な華やかで儚げな女性がの姿が見えた。
だがよく見ていただきたい。青白く、青白く光っているのだ!しかも半分透けている。

ー・・・ぶっちゃけ言うと幽霊である。


「え・・・ちょちょちょみずき!?こここここれって「幽霊ですね。」言った!!ハッキリ言ったあああああああああ!!!!!?????」

聞きたくない!!と言わんばかりに耳を塞ぐアレンであるが、そんな事をしても現状は変わらない訳で。

「太陽の欠片を持っていた英雄には将来を誓い合った女性がいたらしいんです。」

固まっているアレンを横目にイタリアーノが言っていた、もうひとつの伝承を話し出した。



その将来を誓い合った女性は病弱で英雄の渡航についていくことができなかった。
だからこそ英雄はどんな状況にいても花を贈り続けた。
造花でも生花でも、彼女が喜ぶ花を贈り続けたのだ。
彼女は花が好きだった。なぜなら何時も貧血などで倒れてしまう自分を花は無言で励ましてくれていたから。
そしてどんなに遠い場所でも自分の為に花を贈り続けてくれた彼。
大切で大好きなあの人。


「しかし、彼女は英雄の帰りを待つことなく、この世から暇を出されました。」


彼に会うことを楽しみにしていたはずだ。彼女も英雄もひどく嘆いた事だろう。
彼女は待った。彼が人生を全うするまで待っていたのだ。そして数年後英雄は生涯の幕を降ろした。

最悪の形で。


「オーナーが言っていましたね。確か、英雄は自ら命を絶ったと。」

アレンの言葉にみずきは頷いた。

「・・・自殺は天へ召されず、誰にも見られることなくずっとこの世を彷徨う事になってしまうんです。つまり彼女は英雄を視ることが出来ない事になります。」


それは悲しき悪循環だ。
どちらも互いを見ることが出来ず、ずっとこの世を彷徨う事になる。
そこで登場したのがイノセンスではないだろうか。
お互いの『逢いたい』という気持ちに作用したのだろう、まるで自分はここにいるよ、ここで待っているよと体現するように花弁が町に振り出したのだ。しかし、それでも二人は互いを見ることが出来なくて、ここまで被害が広がってしまったのだろう。

ふと娘の亡霊をみると静かに踊りだした。そして彼女に呼応するようにふわりと花弁が舞いだす。
その光景はとても美しく、幻想的で、どこか淋しいものを感じるのは何故だろう。
この苦しさをなんて表せればいい?アレンはぎゅっと拳を握るしかできなかった。

「どちらも見つけられないなんて・・・」
「それが自分で命を絶った者の末路です。・・・ですから楽にしてあげましょう」



ーそれはどういう意味だ?

それを口に出す前にみずきがイノセンスを抜刀し、英雄の眠る墓に突き刺した。






19/19
prev | next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -