これが私の世界23/4



それから暫くして、他校の友人と別れ、電車にのり帰路へつくみずきである。

・・・が!

「(身投げ野郎のばかぁ!!)」

人身事故により、乗っていた電車が緊急停止してしまったのだ。お陰で三十分近く電車の中で缶詰にされてしまった。
幸い、停止したし駅が最寄り駅に近かった事もあり、すぐに到着したのだが、思わずばかぁ!と心の中で叫ばずにはいられなかった。

気晴らしに空を見上げると満点の星が輝いてるではないか。綺麗だな、と思うもこんなに時間が押してしまった事に不安を感じずにはいられなかった。
家に着いたら曲を作ろうと決め足を進めると、視界に杜が見えた。

「・・・あれ?」

神社だ。それも鳥居から見てとても古そうな。
丸太をそのまま使っている鳥居は注連縄が貼られておりいかにも俗域と聖域を隔てている様にみえ、鳥居の先には石段がある。
この神社はみずきが小さい頃から地元に存在する神社で、自由研究で研究したことのある神社である。不思議な事にご祭神の名が描かれておらず、管理する宮司に聞いても首を傾げていたのを覚えている。(普通の神社では神社の由来を書いた掲示板等に祭神の名が書かれていたり、神社建築の千木、鰹木という物を見れば女神か男神か推測ができたりする。また古事記・日本書紀に記載されている神である可能性が高いので、図書館で調べてみるのも手である。)

そんな神社であるが、不思議とみずきは目をそらす事ができなかった。正に「呼ばれている」、この言葉がしっくりと合うように。
気付けば足が家ではなく神社に向いていた。行かなければならない、行かなくちゃいけない。彼女の直感がそう発していた。

一段一段階段を上っていくが不思議と怖さはなく、鳥居をくぐった途端どこか安心した、まるでお母さんかお姉さんに呼ばれた子供のような安心感がみずきの心を占めた。
ふと思い出した事がある。宮司がここの神社のご神体は敷地内の池であり、神社の中には一振りの日本刀が治められている、と言っていたのだ。
あぶないから触っちゃ駄目だよ〜?と言われながら刀を見せてもらった。漆喰の鞘はとても綺麗で、天井の照明が反射してきらりと輝いて見えた。よく見ると手入れされているのか漆喰の鞘が鏡の様に自分の顔を映していたのだ。
ふとみずきの頭の中で誰かが言った。刀が、自分を読んでいる、と。

階段を上りきれば手水舎と本殿が見えた。
自然と足がうごく。足が動くままに進めばその先は池であった。ご神体の池。

絶対に入ってはならない禁足地

駄目だと理性では分かっているのに本能が行けといっている。ほら、注連縄をくぐれば目の前はもう池だ。
池の淵付近で足が止まった。止まったというより何かに躓いたというべきだろう。なんだろうと首を下にむければ先ほど思い出していた刀が目の前に落ちていた。
なんで刀が此処に?と思うもすぐに思考を中断せざる終えなくなった。

刀を手にした途端、みずきの感情は「歓喜」に満ちあふれ、何故かこの刀の名が浮かんできたのだ。宮司が知らないと言っていた刀の名を。
手が震える。言いたい、この刀の号を口に出したい。でもそれを言ったら何かが崩れる気がしてならない。
しかしそこは人間の真理か、みずきは言ってしまうのだ、刀の号を

「八房・・・」

そう、この名は

「死者行軍・・・『八房』」



瞬間、みずきは池に引きづり込まれた。


6/19
prev | next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -