Stray cat
とても複雑だ。ティファニーは懐かしい大広間を見渡し、フォークでソーセージを突っついた。
また学生をやらなければいけないのはとても複雑だった。懐かしくもあり、そしてやはり成人して立派な魔女だった自分がいきなり学生に戻るのは難しい。
どうしていいか分からなくなる。杯の中に入ったミルクを飲み干し、パンを手にとった。
グリフィンドールのテーブルを見遣る。
楽しそうに顔を寄せ合って会話を交わすジェームズとシリウス、それを微笑むながら見つめ食事をとるリーマス、オドオドしたピーター。
続いてスリザリンテーブル。静かに食事をとるセブルスにレギュラス。
懐かしい顔ぶれだ。クリスマスにはグリモールド・プレイスへ帰り、マルフォイ邸で親族一同顔を合わせる。
「シャーロック…ジョン」
彼らは果たしてこの世界にはいるのだろうか。
クリスマスに帰省したら確認しよう。ベーカー街があるのか。彼ら2人は存在するのか。
「もう起きたのか」
聞こえてきた声に振り返った。
長身、すらっとした体格、暗い巻き毛。こんな生徒知らない。
しかし明らかに自分のことを知っていてそして何よりレイブンクローであることを象徴するカラーのネクタイにローブを見ればすぐ彼が自分と同じ寮であることはわかる。
でもどんなに学生時代を思い起こしてみても記憶の中にこの男はいない。
驚いたまま彼を見上げる。いや自分は確かにこの男を見たことがある。ここではない。別の場所――別の世界で。
「どうした、狐に抓まれたような顔をして」
呆れた顔をされ、「ごめんなさい」と慌てて謝った。
どうやらこの世界には勝手に口が開いて喋ってくれる“便利機能”はないらしい。
男は気にせず向かい側に座る。
「hi,僕もここいい?」
続いてやって来たグリフィンドールの男。
この男も記憶の中ではいないが見たことがある。彼は自分の隣りに腰かけた。
「ジョン、オレンジジュースとってくれ」
やはり彼はジョン。ということは自分の向かい側に座るもう一人の男は――
「自分で取れよ、君なら届く」
「はい」
確かめるように「シャーロック」と付け足してオレンジジュースの入った魔法瓶をジョンの代わりに手渡した。
ありがとう、と返されやはり彼がシャーロックなのだと確認できた。
何ということだ。ここもまた自分の知らない世界だ。学生時代の自分だったらまだホッとできた。
しかし知らない人間が突然知っているかのように振舞い、環境がコロコロと変わっていく。
ストレスを感じないハズがなかった。
「相変わらず朝早いね」
ジョンからそう言われ、ティファニーは笑顔を取り繕う。
「ええ。早く起きないと授業までに頭が働かないもの」
「僕は眠い」
シャーロックは不機嫌そうに言った。
ベーコンと目玉焼きをナイフで切り、パクリと一口サイズに切ったものを口に入れる。
「僕は1時限から『魔法薬』さ。最悪だ、スリザリンの連中と合同だ」
ジョンは羊皮紙に書かれた時間割表に視線を落とし、顔を顰めた。
成る程、グリフィンドールとスリザリンはここでも犬猿の仲というわけだ。
「僕たちは2時限から『呪文学』だな。よし、1時限目は丸々眠れる」
「何言ってるのよ。課題は?」
鞄からメモを取り出すとやはり課題リストが載っていた。学生時代、課題は必ずメモをするのが自分の中でのルールだった。
こんなときばかりは自分のそんなマメな性格に感謝した。
「そうだった。悪い、ティファニー図書館に付き合ってくれ」