Take it easy


「あ、れ?」

どこかいつもと違う自分の部屋に戸惑いながらティファニーは“音の鳴る厳つい時計”を見遣った。
どうやって止めるの、これ。というよりもこの不思議な時計らしきものは何だ。
しかし考えるよりも先にティファニーの手は自然に動き、それを軽く叩いた。部屋に静寂が訪れる。外からは煩いエンジン音が響いた。
滅多にグリモールド・プレイス12番地の前に車はあまり通らないはずだが…。
コンコンとドアがノックされ、返事するよりも先にドアが開け放たれた。背の高い興奮した様子の男に驚くが何故かティファニーは逃げようと思わなかった。
こんな男知らないはずなのに自分の口が自然に――いや違和感は拭い去れないが知っているかのように動いた。

「おはよう。どうしたのよ、そんなに興奮して」

また何か事件?と続ける。
事件とは何だ。言葉とは裏腹にイマイチしっくりこないティファニーは内心首を傾げた。
ああ、いや。自分は知っているのだ、この男を。なんとなく。

「ああ、聞いてくれ、ティファニー!喜べ、ティファニー!僕の大好きな事件がやっときたんだ」

目を輝かせ、ティファニーの恰好に気を止めることなく腕を引っ張り上げてベッドから下ろされる。
待って、シャーロック私パジャマ。そう言おうとしたが口を閉じた。
え?なぜ自分は知らない男の名前を呼ぼうとした。
そのまま引きずられ、新聞を読んでいる男とキッチンに立っている婦人の場所までやってきた。

「おはよう」

またまた知らない男に挨拶され、「おはよう」と“何故か柔かに返す自分”。

「パジャマかい?」

「ええ、目を覚ましたらシャーロックが入ってきて」

肩を竦めてみせれば男はやれやれと頭を振る。
キッチンの方で朝食作りを進める婦人の背中を見遣る。
口は自然と動いた。

「あ、ハドソンさん。朝食作り手伝います」

「いつも悪いわね。着替えてからでいいわよー」

着替える為に立ち上がると男はティファニーを見上げ、新聞をテーブルに置いた。

「兄さんたち仲直り、した?」

浮かぶシリウスとレギュラスの顔。
ということは自分に間違いなく兄はいるということだ。
でも何だこの違和感は。知っているのに知らないこの風景で溶け込んでる自分。
わかるのにわからない。知っているのに知らない。モヤモヤ感が燻り、軽く混乱。

「わからないわ。最近向こう顔出ししてないし」

「そうか。あ、着替えの邪魔したね」

「いいのよ、ジョン」

微笑み返し、ティファニーは自分の部屋へと戻った。
ドアを閉め、思わず額に手をやる。

「何がどうなってるのよ…」

思わずそう呟いた。




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