Questions that need answering

地下牢はひんやりと冷たく、身体が震えた。思わず摩るとそれを冷たく一瞥する男がいた。
静かに椅子に腰を下ろし、彼は自身の指を組んだ。

「座りたまえ、Ms.ブラック」

「…はい」

大人しくスネイプの命令に従い、彼の目の前の椅子に座った。
それを見計らったように彼は口を開いた。

「さて、我輩の記憶が正しければ生徒にティファニー・ブラックという名前はいなかったはずだが?」

「先生が憶えていないだけなのではないでしょうか」

注意深く彼の口元を見遣れば、一瞬だけヒクリと痙攣した。
相当、自分を嫌っているようだ。それは一体なぜか。頭を巡らせた。簡単な理由だ。
ティファニーをかつて犬猿の仲であったシリウス・ブラックの娘だと思い込んでいるからだ。仕方のない兄だ。
しかし誤解は解きようがない。自分が今まさに体験していることは魔法界では不可解なことであるし前例がない。
言ったところで頭が可笑しい娘だと思われて聖マンゴへ送られるのがオチだ。

「受け持ったことのある生徒の名前はほとんど記憶している。それがブラックなら尚更だ」

「……失礼しました」

「どのような手段で不法侵入をしたのかね」

不法侵入…?ティファニーは苦笑を零した。

「私は不法侵入などしていま」

遮るように大きな音がして扉が開いた。思わず振り返り、どうしたものかと様子を窺った。
鳶色の髪に傷を負った男がツカツカとこちらへやって来る。

「セブルス、本当かい?ブラックというセカンドネームを持った女子生徒がいるって?」

リーマス…!ティファニーは思わず立ち上がった。
感激のあまり泣いてしまいそうになったが何とか堪える。

「ルーピン、ノックしてから入れ」

スネイプは呆れたようにそう言った。

「悪かった」

リーマスはようやく自分を見下ろした。
驚いたように目を丸くさせ、双眸を揺らした。しん、と沈黙が痛い。

「どうだ、ルーピン」

声を掛けられたリーマスはティファニーを見つめ続け、口を開いた。

「信じられない…そっくりだ…君、名前は?」

「ティファニー・ブラック、です」

リーマスは視線をスネイプへと移した。

「名前まで同じなのか」

「そうらしい、闇の魔術を疑ったが彼女からはそんな気配はない。『例のあの人』とは何の関係もなさそうだ」

『例のあの人』?ティファニーは眉を顰めた。
ティファニーが在学中に死んだはずだ。不死鳥の騎士団が死闘の末に倒した、と。
そう聞いているし、『日刊予言者新聞』でも大きく報じていた。

「処遇はどうするつもりだい?制服は着ているようだけど」

「校長に相談するつもりだ」

ちょうどよかった。ダンブルドアに会おうと思っていたところだ。ティファニーは椅子に腰を下ろした。
この世界もどこか違う。どこかではない。何かが根本的に大きく違う。そうだ、リーマスが声を上げた。

「君の親は?一体、誰なんだ?」

ティファニーは口を開いては閉じてを繰り返した。
わからない…。この世界に自分はいるのだろうか。いや、いるからきっとリーマスはあんなことを呟いたのだ。そっくりだ、と。
しかし、自分が2人いる世界などあるのだろうか。成立するのだろうか。壊してしまわないだろうか。
心配と不安ごとが次々と判断力を鈍らせる。何と答える方が最善なのだろうか。

「それは……」

リーマスとセブルスの視線がこちらへと注がれる。
何と答えればいい。何が正解なのだろう。





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