The watch which still stopped
助けてくれたハッフルパフ寮の生徒と別れ、ティファニーは急ぎ足で校長室へと向かう。
シャーロックは無事だろうか。この世界に来たとしたら一体、彼はどこにいるのだろう。
授業が終わったばかりらしく終了ベルが鳴り、たくさんの生徒とすれ違った。その度にこちらへと視線が向けられる。
制服を着ているとはいえど、もしかしたら見慣れないのかもしれない。ひょっとしたらこの時代に上手く溶け込んでいないのかもしれない。
曲がり角を曲がったところで衝突してしまい、体が冷たい石版の地面に叩き付けられた。痛む体を庇い、顔を上げればぶつかった相手が顔を歪め、摩っていた。
「あ、ごめんなさい」
「…謝って済むと思ってるのか」
ブロンドの髪の生徒がこちらを睨む。
緑のネクタイ姿――スリザリンか。厄介な相手とぶつかってしまった。
取り巻きを2人を従え、少年は立ち上がった。
あれ、この子どこかで見た憶えがあるような…。ティファニーは思わずその少年を凝視した。
視線を受けた少年は見つめられることに抵抗があるのか、微かに狼狽えた。
「何だ、文句あるのか」
「ううん、文句はないけど知り合いにそっくりなものだから」
打ち付けた腰を摩りながら立ち上がり、ティファニーは再度謝った。
グレーの瞳が細められ、品定めするかのようにじろじろとこちらを見つめる。
「お前、見かけないな。どこの家だ」
ブラックと正直に答えるべきだろうか。
いいや、面倒そうだ。迷いながらも口を開く。
「そこでなにをしている?」
新たな声にティファニーは口を閉ざした。
ティファニーの背後からやってくる靴音。ティファニーは振り返らずジッとした。
正面にいるスリザリンの生徒3人は顔を引き締めた。
「はい、先生。そのレイブンクローの生徒とぶつかったもので指導をしていたところです」
指導って…。ティファニーは顔を顰めた。
「君、前を見て歩くと教わって来なかったのかね?」
低くせせら笑うように言われ、侮辱されているのだとわかる。
正面にいる3人も歪んだ笑みを浮かべている。とりわけ、このブロンドの少年の両脇にいる取り巻きたちには腹が立つ。
いちいち、怒っても仕方ない。ティファニーは無表情でいることを心掛け、振り返った。
「申し訳ありませんでした」
黒い男だと思った。どこかで見た気がする男だ。
いや、見間違えるはずもない。セブルス・スネイプ。
彼は自分の正体に気づくだろうか。…その懸念は無意味だったようだ。彼の顔が一瞬の驚きの色に染まった。
しかし閉心術に長けた男なだけはある。すぐに元の不愛想な顔に戻った。
「…後は我輩が指導するとしよう。諸君は次の授業へ向かうように」
「はい、先生。それでは失礼します」
去っていくスリザリン生の背中を見送り、ティファニーは視線をセブルスへと戻した。
じっと見下ろされ、ティファニーは息を呑んだ。深く濃い憎しみの色が見え隠れしている。
ひょっとしたら気づいていないのかもしれない。憎まれることはやっていないのだから。
「あの」
「名前は」
「…ティファニー・ブラック、です」
正直に答えれば忌々しげに冷たく見据えられ、口元が微かに動いた。
「…やはりあの男の娘か」
あの男?ティファニーは訳が分からず、セブルスを見上げた。次に舌打ちされる。
「我輩についてこい、Ms.ブラック」
ローブを翻し、彼は去っていく。何やら勘違いされているようだ。
取りあえずティファニーは彼の後を追った。