Lord knows who I am
薄らと目を開けるとそこは淀んでいた。肌を刺すような痛み。
冷たさだと気づき、息を吸おうとしたが水が口の中を満たし、噎せた。
ここは水中だ。目が上手く開けられない。手足を動かすが力が入らず、ピクリ、としか動かなかった。
どんどん沈んでいく。意識が遠のいていく。そのとき、水面から手が伸びてきた。それに向かって手を伸ばそうとしたがやはり力が入らない。
ごぽ、と泡が口から出て水面に上がっていく。伸びてきた手は自分の体を掴み、引き上げた。
「っは…けほっ…げほ」
ごほごほと咳き込み、地面に倒れ込む。地上はもっと寒かった。
先ほどの刺すような痛みとは比にならない。全身を貫かれたように体が痛い。
自分の姿を見下ろしてティファニーは絶句した。ホグワーツの制服だ。ということはまた過去にタイムスリップしたわけか。
助けてくれた人にお礼を言おうと見上げた。
「助けてくれて、ありがとう…」
「ああ、大丈夫かい?湖の中を覗き込んだら君がいてびっくりしたよ」
ハンサムな男だと思った。しかし見慣れない学生だ。
黄色のネクタイからハッフルパフ寮であることはわかるがこんなにも容姿端麗であったなら気づくはずだ。
在学中、自分はずっと気づかなかったのだろうか。
寒さにぶるり、と震え上がり、クシャミが出た。心配そうに覗き込まれ、彼はポケットから杖を出すと、それを一振りした。
みるみる制服から水分がなくなり、温かくなる。
「ありがとう」
微笑めば、彼も始めは驚いていたものの微笑み返してくれた。
「君はえーと…レイブンクローの生徒?」
手を差し出され、それに掴まりながら立ち上がり、頷く。
「ねえ、変なこと聞いていい?」
「どうぞ」
怪訝そうにこちらを一瞥し、彼は頷いた。
「今って何年?」
そこが大事だ。そこで初めて自分は学年がわかる。見た目だけでは残念ながらおおよそしか予想がつかない。
ハッフルパフの生徒は苦笑いを浮かべて親切にも答えてくれた。
「1993年だけど」
ティファニーは思わず立ち止まった。
彼も足を止め、不思議そうに自分を見つめる。
「どうしたんだ?城に戻らないの?」
1993年?何の冗談だろう。そこは自分の生きる時代ではない。とっくに学生の課程を終えて自分は癒者になった。
現実だとしたらその時代の自分はどこにいるのだろう。そしてなぜ自分は学生に戻り、未来へとやってきたのだろうか。
そうだ。シャーロックはどこへ行ったのだろうか。辺りを見渡す。彼の姿はどこにもない。
まさか湖に溺れたのではないだろうか。湖に引き返そうとしたティファニーを慌てて先ほど助けてくれた少年が押さえた。
「君、正気か?」
「離して」
「また飛び込む気なの?」
「だって彼が…シャーロックが」
「シャーロック?」
ハッフルパフ寮の少年は眉を顰め、そして首を横に振った。
「君以外誰もいなかったよ」
それで飛び込む気がなくなったと感じ取ったのだろう。少年は解放してくれた。
シャーロックが湖にいないとしたらどこへ行ってしまったのだろうか。確かに彼と一緒にこっちへやってきたと思ったのに。
とりあえず、ダンブルドアはまだホグワーツの校長だろうか。彼に会わなければいけない。