I won't cry


目を開けた。ああ、やはりだ。現実から逃れようと目を再び閉じる。
ゆっくりと諦めたようにティファニーは目を開けた。大人の体に戻っている。
しかもここはマグルの世界。イギリス、ロンドン、ベーカー街。シャーロック・ホームズのいる世界に戻ってきたのだ。

「大丈夫か、ティファニー」

「うん、何とか」

額の辺りを押さえながらゆっくりと体を起こす。
自分のベッドの上だった。扉にはジョンが様子を窺うように立っている。

「ねえ、教えてジョン。私に何が起きたの?」

考えても何も浮かんでこない。
ということはこの世界で気を失ってから時間は経っていないということになる。

「覚えてないか?君が頭痛を訴えて倒れたこと」

「記憶にはある」

「そのまま君は気を失ったんだ」

ここは病院ではなくどう見ても自分の部屋だ。
見渡して首を傾げればジョンは苦く笑い、椅子に腰を下ろした。

「病院に搬送されたけどシャーロックはそれを拒んでここに連れて帰って来た。ああ…彼はそのまま事件現場へ向かったよ」

「そう。でもシャーロックは何でわざわざそんな面倒なことを…」

そのまま病院へ送り込んでおけば彼はそのまま事件現場へ向かえたのではないだろうか。
彼は興味ある事件へ真っ直ぐ向かうはずだ。
なぜそんな面倒なことを?様々な推測が頭を過ぎったがどれも納得できない。

「さあ…元々彼の行動を理解できる人なんて少ないんじゃないかな。もちろん僕は理解しようと努めるけど」

確かにそうだ。ティファニーは苦笑を返した。

「まだ寝てた方がいいよ、何だかまだ疲れた顔してる」

「そうかもね…何だか少しまだ疲れているかも。うん、そうさせてもらう」

「おやすみ」

おやすみと返し、布団にまた潜り込む。
ドアが閉まる音が聞こえ、ティファニーは眉間に皺を寄せた。
ダンブルドアが言っていた。過去にも何度かもしかしたら飛んでいたのかもしれないと。
単にその記憶が失われているだけだと。そうだとすればまた疑問が生まれる。
なぜ今の自分は何度か飛んでいるのに記憶を保てているのかだとか今まではなぜ記憶が失われたのだろう、とか。
分からないことだらけだ、ダンブルドアが言う通り。
それゆえ、不安だった。原因も、こうしてランダムに何度も飛ぶ理由も。
元の世界が恋しい。自分の兄であるシリウスやレギュラス、自分の職場、クリーチャー、先輩や後輩が。




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