I threw my caution to the wind


4階にある図書室を出て、ティファニーは回転階段を駆け上がった。
通り過ぎる学生たちは驚いたように自分を見ている。これから授業の学生たちだろう。このままフィルチに見つからなければいいが。
8階まで上がったときにはもう息が上がっていた。息を落ち着かせながら石のガーゴイルを見上げる。
合言葉は何だろうか。ダンブルドアが考えそうな合言葉は一体…。
頭を巡らせ思案していると勝手にガーゴイルがぴょんと脇に跳び、壁が2つに割れた。
そこから階段が現れた。もしかしたらどこかでダンブルドアが自分のことを見ているのかもしれない。
そう思ってキョロキョロと辺りを見渡したが誰もいない。学生たちはみんな授業に出払っているし教授たちだって職員室か授業を執り行っているだろう。
螺旋状の階段。それに乗ると樫の扉の前まで運ばれた。当たり前だが未だかつて校長室へ入ったことはない。
入る生徒なんて稀で誰もいないだろう。ティファニーは遠慮がちにグリフィンの形をした真鍮のドアノッカーを打ち付けた。

「……」

返事はない。

「あの、ブラックです。…失礼します」

迷った末にドアノブに手をかけ、中へと足を踏み入れた。
広々とした円形の部屋に思わず足を止める。じっと見ては失礼だと分かっていても見ずにはいられない。
繊細な家具、見たことのない道具、みすぼらしいボロボロの『組分け帽子』、キラキラと輝きを帯びた瓶。
壁一面に歴代校長の肖像画が並んでいる。それらは目を閉じて一見寝ているように見えるがよくよく見ていると狸の寝入りをしているのだとわかる。
そして驚いたことに不死鳥が止まり木にとまり、羽根を休めている。ティファニーは思わずその不死鳥に近づき、羽根を撫でた。

「気に入ったかね?」

突然の声にティファニーは驚いて振り返った。
ダンブルドアは優しげに目元を細め、ゆったりと微笑んだ。

「すみません、勝手に入ったつもりは…」

「分かっておるとも、ミス・ブラック」

校長は「ほほほ」と笑うと椅子に腰を下ろした。

「ワシに聞きたいことがあって授業を抜け出して来たんじゃろう?ええ?」

全くもってその通りだ。
一体彼がどうやって知ったのかは分からないが今はもっと不思議なことを彼に相談する必要があると思い、素直に頷いて口を開いた。
しかしティファニーが口を開くとダンブルドアは片手で制し、杖を徐にひと振りした。
戸棚が開き、ティーセットがテーブルに並べられる。湯気が立つカップを覗き込む。
濃いオレンジ色の液体でカップは満たされている。息を吸い込めば深いダージリンの香りがした。
コトリ、とダンブルドアとティファニーの間に小皿が置かれ、それはクッキーに満たされている。

「お飲みなさい」

「頂きます」

カップを持ち上げ、それを一口飲む。
何だか妙に安心した。カップをソーサーに戻し、ティファニーは再び、口を開いた。

「最近とても不思議な体験をしたんです」

ティファニーは全てを包み隠さず話した。
このホグワーツを卒業し、聖マンゴ病院で癒者として働き日常を送っていたこと。
ある日、目が覚めたら自分の家ではなく見知らぬマグルの家にいて刑事として生活することになったこと。
その際に知らないはずなのに自分はなぜか知っていたことも勿論話した。
そして突然、体に異変が現れて学生時代に戻ったことも。
全てを話す間、ダンブルドアは指を組んだまま口を開かずに静かに耳を傾けてくれた。
表情を動かすことなくただじっと。

「…話してくれてありがとう、ティファニーよ」

「いえ」

「ワシが思うに、君はブラックの血を間違いなく受け継いでおる。じゃが遺伝子異常が生じそれが強い魔力として放出されたのかもしれぬな」

それは自分でも考えたことだがなぜ大人になってからなのかがわからなかった。
腑に落ちない。それが表情に出ていたのかダンブルドアはさらに続けた。

「問題なのは何故大人になってから君の魔力が暴発したのか、じゃな。魔法使いや魔女の持つ魔力は子ども時代ではまだまだ小さいものじゃ」

「成長していくにつれて膨大なものとなる為、それを上手くコントロールし使役できるようにホグワーツなどの魔法学校がある、ですね」

「その通り、君は卒業した。力は難なく使いこなせるはずじゃ。時空を移動する魔法使いの文献は残念ながら未だかつていない。
伝説として書かれるくらいじゃ。君は『吟遊詩人ビードル』はもちろん?」

「ええ」ティファニーは頷いた。「もちろん知ってます」

「あれは分かりやすく書かれていたり、省略されたりしておるが…原書は?」

ティファニーは狼狽えた。ダンブルドアはどうしてそのような質問をするのだろう。
マグル出身でない魔法使いや魔女なら誰もが聞いたことがあるだろうお伽話。
原書などどこにあるか知らないしまず存在するのかもわからなかった。

「…いえ、ありません」

「その話の中に『究極の純血』という物語があることは誰も知らない。ひょっとしたら魔法大臣すらも存じていないはずじゃ」

「『究極の純血』?」

ダンブルドアは頷いた。

「特異な魔力を持つ魔法使いの話じゃ。異世界や時空を自由に移動する魔法使いの」

ぴったりと自分に当てはまるお伽話の人物。
まさか。だってそれはお伽話の1つ。そうダンブルドアだって言った。
それに自分は普通の魔女だ。純血かもしれないが在学中、特別なことなんて何も起きなかった。
努力して成績を良くしたりして特別優れていたわけではない。

「こんなことってあるのでしょうか?」

不安げにダンブルドアを見上げれば彼は微笑み頷いた。

「この世界には知らないことが満ち満ちておる。説明のつかぬことだってたくさんあるのじゃよ、ティファニー」





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