春暁

春暁

春眠不覚暁

処処聞啼鳥

夜来風雨声

花落知多少


(春の眠りに明けそめたとも知らなかったが
あちらでもこちらでも さえずる鳥の声
そうだ ゆうべは風雨の音がしていた
さて 花はどれほど散ったかしら)

ぼんやりとした双眸で窓の景色を見やり不思議な発音で言った彼女。
どこの国の言語だろう?前半は中国っぽい響きだった。しかし後半は掴めなかった。
訳が分からずに陽葵を見つめれば、彼女は微笑した。

「春って眠いよねえ…」

窓に寄り掛かり、陽葵は気だるげに指を持ち上げて窓ガラスを軽く弾いた。
窓ガラスの表面についていた雫がゆっくりと滑り落ちていく。視線でその様子を追った。
窓についた雫が陽光を受けてキラキラと反射する。

「ああ、確かにな」

レオンは同意を示し、マグカップをテーブルに持っていった。
テーブルの上で湯気が立つココア。
陽葵は「ありがと」とお礼を言い、一つのマグカップを手に取った。
手を温めるように両手でマグカップを包み込み口をつけた。
その瞬間、うげ、と顔を歪ませた。
軽くレオンを睨めば彼は笑って「それは俺のだ」と取り上げ、別のマグカップを彼女に手渡した。
別の方が甘いココアだった。マシュマロが入っていて美味しい。
一方、レオンのもココアなのだがなぜか苦い。
恨めし気にレオンを一瞥し、陽葵はソファーに座る彼から背中を向けてしまった。
レオンは小さく笑みを零した。そして窓辺に座る彼女を後ろから抱き締めた。
陽葵はそのまま彼に寄り掛かる。

「ん〜眠いー」

そう呟く陽葵は冷たい窓に触れた。
冷たい、なんて呟く陽葵に当然だろう、と返す。

「でも冷たいのに触れてないと眠りそうなんだもん」

「眠っちゃいけない理由なんてあるのか?」

もぞりと腕の中で陽葵は動いて、レオンに正面から抱き着いてきた。
胸に擦り寄ってくる彼女は純粋に可愛い。

「レオンあったかい…」

微笑みながらレオンは彼女を抱き締め返してやった。
何だか今日の陽葵はかなり甘えてくる気がする。やはり寂しい想いをさせていたのだろうか。

「眠ったら…レオンといる時間が減っちゃうもん」

ぽそりと呟いた陽葵の言葉にドキリとした。

「陽葵」

恐る恐るレオンは彼女の名前を呼んだ。

「うん…?」

「…一緒に寝よう」

「うん」

続けられたレオンの言葉に驚くまでもなく頷いた陽葵の目はトロンとしていて今にでも閉じてしまいそうだった。
彼女の前髪を優しく退けてそっと露わになった額にキスを落とした。
そのまま抱え上げて、ベッドまで運ぶ。陽葵はレオンの服の裾を掴んだまま寝ていた。

「陽葵」

小さく呼びかけて、さらに深く抱え込む。
背を撫でれば、レオンの方へと擦り寄ってきた。温かい。
穏やかな寝息が耳に聞こえる。
それを子守唄代わりにしながらレオンは目を静かに閉じた。



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