アイシャドウで目元を飾って
3 アイシャドウで目元を飾って
朝起きると彼女は鏡に映る自分の顔を凝視していた。納得いかない、そんな顔。
片目を閉じてウィンクしたままじーと鏡に映る自分の顔を見たり、化粧台に並べられたキラキラした様々なカラーのものを見たり。
朝から何だか忙しそうだ。女というのは大変そうに見える。自分の為にお洒落をする彼女がすごく愛おしかったり。
何ていうのはただの妄想。彼女が誰の為に化粧をしてるかというとそれは自分じゃなくて某エージェント。志が同じの若い警察官だった男。
幼い頃は自分と結婚するとか言っていたのに。
溜息をつけば彼女は頬を赤らめ、バッと勢いよくこちらを振り返った。
「く、クリス!いつの間に…」
「ん?今来たところだが」
乙女心というのは複雑。ジルからそう聞かされ、思わず反射的にそう返した。
まさか鏡を凝視してポージングとっていたところを見ていただなんて言えない。無神経過ぎる。
若い頃は遠慮なく傷つけるつもりはなかったが気づかずに傷つくようなことを言っていたがこの年齢になってくると自ずとわかってくる。
ホッとした様子で彼女は息をつき、ふにゃりと笑った。
「よかったー…」
「どうしたんだ?何か問題でも?」
近づけば彼女は眉根を下げた。困ったように唸る彼女を見て化粧で悩んでいることはわかった。
こういうことはジルかクレアの方が詳しいのはわかっている。だがどちらも不在。
ジルは任務に出ているしクレアは海外出張へと旅立っている。
「あの、ね。アイシャドウが上手くいかないの」
アイシャドウ…。言葉くらいしか聞いたことがない。
実物を見たがそれが化粧にどのようにどのくらいの効果を発揮するのか正直なところよくわからない。
やはり女は難しい…。
「あまり派手なのは好きじゃないし…というより似合わないのは知ってるし。でも薄すぎると…ね?」
ね?と同意を求められても俺はよくわからん。
戸惑いながら取り敢えず使っていた道具を手にとってみる。開けっ放しの扉から誰かが通ったと思ったらひょっこりと顔出した。
ピアーズ…!!救世主が現れた。救世主と表現するのもなんだか可笑しな話だが。
「どうしたんすか?」
「あ、ピアーズさん」
この2人はいつまで経っても態度が畏まっているし言葉遣いも丁寧な言い回しだ。
近づいてくるピアーズに彼女は懇願するように両手を合わせた。
「ピアーズさん!アイメイクが上手くいかないんです!助けてください!」
アイ、メイク?目のメイクのことか。
ピアーズは目を瞬かせてしばらく考え込むようにジッと彼女を見下ろしていたが柔らかく微笑み「いいっすよ」と朗らかに答えた。
どうでもいいがピアーズ、お前すごい。どこでそういう技術を学んだのか知らないが手先が器用なのは改めてわかった。
「まず貴方は素材を活かすべきなんすよ。地味だからとか派手だとか元々の顔立ちを理由に…」
やはりピアーズはすごい。聞き入っている彼女は「ほう」と熱心にピアーズの指示を受けて筆をとっている。
「ナチュラルに仕上げたいならやはりゴールドやブラウン系を。ベースにはラメなしの肌色を。アイホールにピンクを入れると…」
ピアーズの論議は30分も続いた。
「うわ〜ありがとうございます!」
出来上がったようだ。クリスは組んでいた腕を解いて彼女の顔を覗き込んだ。
「クリス!どう?」
機嫌良さそうに鼻歌交じりにそう聞いてくる彼女に向かって「ああ、可愛い」と言う。
「ピアーズさん本当にありがとうございました!」
「ふふ、お礼はいいんですよ。ああ、でも」
「……?どうかしたんですか?」
ちゅ、とピアーズは彼女の頬に口付けを落とした。
固まる彼女に向かってピアーズは笑う。
「お礼はこれで」
「ぴぴぴピアーズさん!!」
「レオンさんには内緒っすよ?」
悪戯っぽく片目を瞑るピアーズ。
おい、ピアーズ。お前は俺が目に入っていないのか。
そう叫びたかったがクリスは唖然とピアーズを見据えたままだった。
(ピアーズとクリス×レオンの恋人な女の子)