The only greatness for a man is love someone


ゆったりとした動きで指を鍵盤に乗せ、ばらばらと動かした。曲は適当に頭の中で浮かんだメロディー。
外は真っ白な雪がキラキラと街灯の光を受けて反射し、いつもよりほんの少し明るい。部屋を照らす光は一方、暖炉の光だけだ。
しかしなかなかこういうのもいい。神秘的で落ち着く。フラットにはアリス以外に誰もいない。
2人は事件へと出かけ、今夜も帰りが遅い。実際、ジョンからテキストが送られてきた。

「今日何の日か知ってるのかしら…」

ぼそり、と思わず呟き、首を横に振った。
その拍子で鍵盤に掛かる指の重圧が重くなり、強い音へと変化し、すっかり繊細な音楽を台無しにしてしまった。
興ざめだ。アリスは鍵盤から指を離し、足を組んで窓の外へ顔を向けた。塵のように細かく、埃のようにふわふわとした白いものは地に落ちて確実に積もっていく。
また浮かんだ異なるメロディー。じっとしていても何もすることない。だからといってこのまま雪を眺めているのも気が引けるし何だか“退屈”だ。
仕方なくアリスは鍵盤に指を乗せ、ばらばらと動かした。先ほどよりも1オクターブ高く、伸びやかに、そして優しく弾いた。
朝、起床しても誰もおらず、そのまま仕事場へ向かった。女性は色めき立ち、男性からの贈り物に浮足立っていた。
音を耳で聴きながら頭の中の楽譜に沿ってメロディーを紡いでいく。その頭の片隅には彼がいた。いつだって見るのは彼の背中。
佇む背中はピンと伸び、肘掛け椅子に腰を据えている背中は丸まっている。その背中に寄り添うジョンと自分の姿が思い浮かぶ。
けれどいつだって隣にいるのはジョンだ。我慢していた感情の糸が切れて、瞳に涙が溜まる。それを拭わずにアリスは弾き続けた。
零さないように瞬きを堪えながら指を懸命に動かした。自分のiPhoneが短く鳴る音が耳へと届いたがアリスはそれを気にすることなく、自分の音楽に没頭した。

「いい旋律だ」

突然、部屋に生まれた音にビクリ、と肩を揺らし、顔を上げた。

「ああ、ダメだ。やめないでくれ」

背後から冷気が伝わり、腕が伸びた。続きを促すように軽やかにその指が動いて鍵盤を弾く。
アリスはそれにつられるように指を動かした。背後から聞こえてきた呼吸音に鼓動が煩く音を立て始める。彼が傍にいるだけでこんなにも穏やかになれる。
ゆっくりと目を閉じれば、ぽろり、と頬へと零れ、流れた。それが背後からの指先に拭われた。
動かしていた指を止めれば、背後から引き寄せられ、力が込められた。

「不思議だ……」

「…何が?」

「僕の存在を認識した途端、君の音楽は穏やかさに包まれた」

「貴方が来る前は?」

「胸が苦しくなるような切ない旋律だった、それでもどこか温かい…。素晴らしい。こんな僕にでも君の感情に触れられる。そんな素晴らしい音楽だったよ」

アリスは恥ずかしさに、はにかみ、口を開いた。

「ジョンは?」

「ジョンならデートだよ」

さあ、とシャーロックはアリスの片手を掴み、ゆっくりと立ち上がらせた。
ぱちくりと彼の暖炉の炎に照らされた深い顔を見上げ、首を傾げる。彼のもう片方の手は何かを隠すように彼自身の背後へと回されている。

「シャーロック?」

「I can't live without you」
[君なしでは僕は生きていけない]

彼からの突然の愛の言葉にアリスの頬に熱が集中した。

「シャーロック…!?」

彼は視線を外して咳払い一つし、そしてまた視線を合わせてきた。
真っ直ぐと注がれる視線にまた心臓が大きく脈打つ。

「Happy Valentine's Day」

「ええ。Happy Valentine's Day」

にっこり微笑み返せば、彼は微かに口角を上げた。
そして後ろにやっていた片手を差しだし、目の前に掲げた。彼の掌の上に視線を遣り、目を見張る。
確かにそこに乗っていたのは箱だった。長方形で真紅の。
ゆっくりと受け取れば、シャーロックはコートを脱ぎ、手のやり場に困ったのかジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
そして今さら恥ずかしくなったのかバイオリンを手にし、適当に弾き始めた。照れ始める彼を見つめ、箱を開けた。
シルバーのネックレスだった。月がモチーフらしい。中心部には空洞が空いていて、暖炉の炎の灯を浴びて宝石が煌めいた。サファイア。

「綺麗……。これは?」

「僕らしくないと思ったがジョンはそれくらいやれって。…僕が選んだ」

そわそわとするシャーロックにアリスは微笑み、近づいて抱き着いた。

「ありがとう、とっても素敵」

「気に入ってもらえてよかった……」

抱き締め返され、目元と口元を綻ばせて微笑む。

「シャーロック」

身体をほんの少し離し、見上げた。
不思議そうに首を傾げる彼の頬に触れ、背伸びをして唇を彼の頬に押し付けた。

「愛してる」

シャーロックはふっと口元を緩めて微笑み、頷いた。

「ああ、僕も。僕も愛してる」

暖炉の炎に照らされた二つの影が重なり合った。

END

2014/2/13

『aimer』真帆さんのみお持ち帰りということでほかの方はご遠慮願います。
真帆さん、この度は改めまして相互リンクありがとうございます!!
相互記念ということでこの作品を捧げます。こんな作品で宜しければもらってやってください←
さてさてValentineが近いということでValentineネタとなってしまいました!
いかがでしたでしょうか?
色気シャロ&照れシャロのコンボで書いている私も自画自賛するようで恐縮ですがチョコレートの甘い香りに酔ったようにもうクラクラです(笑)
それでは!



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