長い髪をくくって



 長い髪をくくって

「邪魔…」

と彼女は言った。
演習中、彼女は何に対してそんなことを言ったのか。
元々口数の少なくて見事なまでにいつでもポーカーフェイスな彼女の真意はわからない。
あれで俺の恋人だ。周りに彼女のどこがいいのか聞かれたことがあるがいつもはぐらかしている。
休憩中そのことについて聞いてみると無表情だった彼女の顔に変化が現れた。

「ピアーズ…聞いてたの?」

「ん?ああ、そうだけど」

そう返すとほんの少し彼女は恥ずかしそうにした。
ああ、こういうところも可愛いなって思う。仲間たちには絶対見せたくないが。

「髪」

「は?」

「髪が邪魔なの」

ああ。ようやく納得した。
確かに結んでない髪は邪魔そうだ。生憎俺には髪を結ぶゴムなどない。

「ごめんな、俺ゴムはない」

別のゴムならあるけれど。それを言うのは控えておくことにする。
言ったら間違いなく三角締めされるだろう。

「ジルから借りたけど結べない」

「俺が結ぼうか?」

無言で差し出してきたゴムを受け取って素直に背中を向ける彼女の髪に恐る恐る手を伸ばす。
触れると「ん…」と可愛らしい声を上げるものだから昼間なのに反応してしまったのは仕方ないだろう。
髪を結んでやりながら露わになった項へ視線を落とす。

「ピアーズ?」

戸惑うように揺れた彼女の声。
ああ、もう理性とか色々知らね。髪をそっと撫でて唇を彼女の項へ近づければビクリと硬直する彼女。
それだけで堪らない気持ちになる。
隊長に見つかったらきっと怒られるな。口許を歪めて苦笑しながらそっと口付ければ「ピアーズ」と縋るような、可愛い声。

「可愛いんだよ、アンタは」

(ピアーズと無口な隊員女の子)



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