繋いだ手から伝わる温もり

風が髪を巻き上げた。見慣れたコルサントの情景をぼんやりと見据える。
夕陽に染まったコルサントがアリスは好きだった。嫌な現実を忘れることができる。
しかしジェダイである以上、その“嫌な現実”から目を背けてはならない。
それが運命であり、使命でもある。責任感の強いアリスはキュッと唇を噛み締めた。
つい先ほど任務を終え帰ってきたところだ。マスターはゆっくり休めと言ってくれた。
しかし。
瞼を下ろせば鮮明に思い出せる叫び声とライトセーバーで斬りつける感覚。
アリスは初めて殺生というものを目にしこの身を持って実感した。
任務は数回行ってはいるものの、相手はドロイドが多く生物は今までなかった。
その不安と恐れのフォースを感じ取ったマスターは安静にしているようにと優しく言った。
勿論、ジェダイはやむを得ない場合を除いて殺生は禁じられている。
情けない、自分は一体何を教わってきたのだろう。
このまま自分はナイトへ昇格することなくパダワンのまま一生を終えてしまうのでないか。
自分に殺生は無理だ、できない。
所詮、綺麗事でしかないのかもしれないが心が耐えられなかった。

「おや?アリスじゃないか」

安心するような温かい声にアリスは驚いて素早く振り返った。
人が近づいてくる気配に気付けないとは。自分を叱咤しながらアリスは「マスターケノービ!」と彼の名を叫び顔を伏せてお辞儀した。

「お久しぶりです」

「ああ、任務を終えてさっき帰ってきたんだって?」

「ええ…」

眉根を下げて苦笑を零せばオビ=ワンは真剣な表情になり、頭をポンポンと撫でてくれた。

「マスター…」

「君のマスターとマスターヨーダから実は聞いちゃってね」

「マスターから?」

オビ=ワンは景色へと顔を向け、夕陽の眩しさに目を細めた。
彼の顔は夕陽によってオレンジ色に染まっている。その影も。

「心配していたよ。君のフォースに乱れを感じたそうだ」

「……」

何も返せずアリスは顔を伏せた。今自分は確かに落ち込んでいる。
立ち直れないと思うくらい未来に不安を感じるのだ。恐怖が自分を蝕んでいる感覚。
不安がそのまま出てしまっているであろう顔を片手で抑え、笑った。

「私、可笑しいですか?」

「いいや、ちっとも可笑しくない」

優しい眼差しで見つめられ、一瞬言葉が出てこなかった。

「でも殺生でこんな悲しくて不安になる私なんて」

オビ=ワンはニッコリと穏やかな微笑を浮かべた。
まるで温かい、安心感のある何かにそっと包まれるようなフォースを感じ取り、アリスは言葉を切った。
注がれる視線は穏やかで優しくてそれでいて安心した。それだけで落ち着いてくる。

「…君は誰よりも優しい。それだけだ。」

「私、優しくなんて」

「優しい人はそう言うものだよ」

静まってきた不安の心を感じ取ったのかオビ=ワンはアリスの指先をそっと絡め取り握った。
目を閉じ、深呼吸一つ。とっても落ち着いた。瞑想したあとよりも幾らか心が和らいだ気がした。
隣りにいるオビ=ワンを見上げ、いつもの元気な笑顔を浮かべた。

「ありがとう、マスター」





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