寄せる熱
パァン、パァン
レオンはそっと署内の射的場を覗いた。
こんな時間まで誰が一体射撃の訓練を行っているのだろう。
そんな気持ちから覗いた射的場には一人の女性が佇み、真剣な様子で的を睨んでいた。
凛とした横顔にドキリと心臓が落ち着かなくなる。
そんな錯覚にレオンは苦笑を浮かべて自身の胸の辺りをシャツごと握り、息を漏らした。
もうそんな青臭い年齢でもないのに。これではまるで自分が青年に戻ったようだ。
顔を引き締め、レオンは真剣な様子で銃を構える彼女に近づいた。
背後から近づいてきた気配に彼女は警戒したらしく体を反転させ、拳を振りかざし確認することなく振り下ろした。
パシリ
そんな乾いた音と共にレオンは彼女の拳を軽々受け止める。
彼女は目を静かに見張り顔を歪めた。
「レオン…びっくりするじゃないの」
「それは悪かったな」
肩を竦めて見せれば彼女は仏頂面のまま、機嫌が悪そうに「ちょっと」と口を開いた。
何だ、と首を傾げれば睨まれる。
「手」
キュッと掌に収まっている華奢な手を握る。
「手…?」
そんな風におどけて見せれば彼女は視線を泳がせ咳払いをした。
恥ずかしがっているようにしか見えない。
くっくっと喉の奥で笑えば彼女は再度レオンを見上げ睨む。
「手を離しなさい、"Mr.Kennedy"」
「…断る」
何だか面白そうだから反抗してみる。
彼女に向かって唇の端を吊り上げてみせれば「撃つわよ」と片方の手の銃を掲げてみせる。
銃口を向けない彼女はまだ本気ではない。
署内では真面目で堅物として知られる彼女。しかしそんな彼女に誰も逆らわないのは彼女が実力あるのが知られているからで。
「離して、あたしは練習したいの」
「…署長の説教を気にしてるのか?」
双眸を細めれば彼女の顔色は変わる。
彼女が署長から射撃について説教じみたことをされたのは知っている。
「っ…とにかく射撃はあまり得意じゃないからただ練習してるだけよ。邪魔しないで」
手の力を弱めれば彼女はサッと身を翻して背を向けた。
何だか悲しい。レオンはやれやれと首を横に振り、銃を構える彼女を見守った。
的から外れる銃弾。ここは一つ“指導”した方が良さそうだ。
レオンは遠慮なく彼女の銃を構える手を背後から掴んで引き寄せ、構え方を直してあげた。
「もっとこうだ」
耳元で囁くようにわざと言う。耳が赤くなる様子は楽しい。
笑いたいのを堪え、レオンはニヤリと笑っただけに止めておいた。
「照準を合わせろ」
「…こう?」
「狙いが定まってない。片目は瞑るな、ズレる」
「そんな、こと…言われたって」
声から伝わる小さな動揺にまた笑いたい衝動。
しかし敢えてレオンは堪えた。
「いいか?この辺りで構えて…」
キュッとハンドガンのグリップを彼女の手越しに握る。
「引き金を絞る」
パァン
弾は的のど真ん中に当たった。
「わあ…」と感嘆するような声にレオンはくすくす笑った。
「どうだ?簡単だろ?」
「すごいわ」
こっそりと口元を彼女の髪に寄せれば甘い香りがした。レオンはそのまま彼女の髪を掬い上げ耳にかけた。
抗議の声を上げる彼女に「しー」と宥め、露わになった耳の縁に口付ける。
「ん…」ピクンと反応する彼女の肩。予想以上に可愛い反応をしてくれるものだ。
「可愛いな…」
「レオン…ちょっと何するの」
「ああ、すまない」
腰を寄せれば素早く俯く彼女。髪から覗く耳は微かに赤い。
「なあ」
「何よ」
「勃った」
「ばっ…馬鹿じゃないの!」
拳が上がる5秒前。