vainilla candle


――ポォーン、ポォーン。

部屋の中で男は溜息を零した。
午前三時を報せる音に暗闇の中、顔を歪めて苦笑を漏らす。
自身の首筋に触れれば汗でじっとり濡れていた。自分らしくない。
失うことを恐れ、悪夢となってそれは実現した。

『レオン…』

苦しそうに吐き出された自分の名前。
彼女は自分の名前を呼び、そしてまた自分に向かって手を伸ばしていた。
震える手を懸命に伸ばし、こう言った。“死にたくない”と。レオンだって同じだ。死なせたくない。
なのに夢の中で守りきることができず、彼女を死なせてしまった。
悪夢のあとからか、レオンは大きな不安に襲われていた。
隣りで彼女は静かに寝息を立てて眠っていた。抱きしめたかった。しかし起こすのは忍びない。
グッと堪え、上半身を起こし両手で顔を覆う。

「……っ」

心の中で何度も彼女の名前を呼ぶ。
スッと手柔らかくて温かい手が添えられる感触に覆っていた手を退かす。
ゆるりと眠たげに瞼が持ち上げられ、黒い双眸がレオンを捉えた。
見上げてくる彼女は欠伸を一つし、ふにゃりと笑った。

「よしよし」

頭を撫でられ、レオンは眉根を下げた。
彼女の笑顔で、彼女に触れただけで不安など拡散してしまったように感じる。
ふふふ、と笑う彼女を抱き寄せ、しっかりと腕に閉じ込める。

「怖い夢でも見たの?」

背中をあやすように撫でられ、レオンは瞼を下ろして目を閉じた。

「ああ…」

カチリ、という音と甘いバニラの香り。柔らかい光に灯された暗い室内。
何事かと微かに身動ぎすれば、彼女はしっかりレオンを抱きしめて離さないまま口を開いた。

「キャンドルつけたの。あたし好きなんだ。落ち着くでしょ?」

「君にこんな可愛い趣味があったとはな」

軽く頭を叩かれ、レオンは忍び笑いを漏らした。

「私の同僚と同じこと言ってる」

「サクラギと?アイツと同じこと言ってるなんて嫌だな」

「もう…仲良くしてよね」

会うたびに喧嘩するんだから、と愚痴を言うように彼女は呟いた。
確かに彼女の同僚とは会う度に罵り合っている。
しかしそれも馴れ合いの一つ。レオンとサクラギなりに仲良くしているつもりだ。

「ありがとう」

「ううん、落ち着いた?」

「ああ、でももう少しだけ…このままでいてほしい」

チュッと口づけ、コツンと額を合わせあう。

「おやすみ、レオン」

「ああ…おやすみ」

ゆっくりと瞼が閉じられる。
部屋を柔らかく照らすキャンドルの灯りは夜が明けるまで二人を優しく包んだ。
穏やかな寝息と共に。

〜完〜




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