My song your songでバレンタイン

【バイオ】
〜Song for youでバレンタイン〜
レオンと『Song for you』ヒロイン

喩えるならドンガラガッシャーン。
そう。そんな音だ。キッチンの方からそんな音が聞こえてきたのは。
レオンは新聞を折り畳み、ソファーから腰を上げて早足でキッチンへと向かった。

「……!!?」

キッチンの光景は予想以上に最悪だった。
泣けるぜ、なんて言葉を吐き出したくなったが辛うじてそれを呑み込みレオンは床に座り込んでいる彼女に声を掛けた。

「大丈夫…か?」

屈み込みキュッと目を閉じている彼女の肩を揺すればパチリと開く双眸。
しゅん、とした様子で彼女はレオンを見ると落ち込み床に散らばった残骸へ視線をやった。
つられるようにレオンは床に散らばった残骸へ視線を向ける。大皿の白い破片があちこっちに散らばっていた。

「怪我はないか?」

「うん、大丈夫」

ホッと息をつく間もなく案の定素手で片付けようとする彼女をレオンは慌てて制した。

「hey,wait…!触れるな…キッチンのことは気にしないでくれ。俺が片付ける」

彼女が触れないうちに早く片付けようとレオンは慌てて立ち上がった。
それがいけなかったのだろう。
台所に置いてあったボウルのチョコレートをひっくり返してしまった。

「……」

「……」

「……」

「レオン…?」

キョトンと見上げてくる彼女。
彼女本人は至って冷静だがレオンは冷静を保っていられなかった。
チョコレートが全て彼女に“かかって”しまったのだ。
なぜ彼女が平静でいられるか不思議でならなかった。

「すまない…!すぐ風呂入ろう」

彼女の細い手首を掴み行こうとすると「レオン」と哀しそうな声。
ああ、やはり自分のミスで彼女を深く傷つけてしまっただろうか。
レオンは立ち止まり振り返って再度、謝罪の言葉を口にしようと口を開いた。
だが彼女の方が早かった。

「レオン…ごめんなさい」

「…なぜ君が謝るんだ」

謝る理由が分からずそう問えば彼女は遠慮がちに眉根を下げて細い声で続けた。

「レオンに…レオンにチョコレート作って、プレゼントしたかったの…でも台無しになっちゃって」

レオンは戸惑った。何と声を掛ければいいか。
自分の感情にも戸惑いを感じていた。
チョコレートを台無しにしたのは自分だ。
そしてこっそりレオンのために作っていてくれたことを知り嬉しかった。
チョコレートと言われればバレンタインのチョコレートであるとすぐにわかる。
“日本”という国は女性が好きな男性にチョコレートを
贈る行事としていることは耳に入っていた。しかし彼女は純日本人ではない。
それに日本とは関わりがないはずだが…。

「それは日本式、だろ?なんで君が…」

「施設にいたときの人に日本人がいて…日本式の行事方法でやってたの…嫌?」

小首を傾げて聞かれレオンは首を横に振って微笑んだ。
嫌なわけがない。むしろ嬉しい。

「嬉しい」

「良かった…。でもまたチョコレート買ってこないといけない」

「…チョコレートはいらないから代わりに」

「代わりに?」

微笑を浮かべて頷き「ああ、代わりにこれで」レオンは彼女の頬に口付けを落とした。
驚く彼女の頬を優しく撫で体に付いたチョコレートを指で掬って指の腹でなぞるようにして彼女の唇に塗った。
そのまま口付け、丁寧に舌先でそれを舐めとる。

「happy Valentine」

双眸細めて優しい声色でそう続ければ彼女はふわりと花が咲いたような微笑を浮かべた。

〜完〜



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