カメラ・オブスクラに閉じ込めて/Shut me in the camera obscura

「す、すっげー!」

そんな声に陽葵は首を捻って振り向いた。
その反動でやっていたクレーンゲームで掴んでいた商品を取りこぼした。
あ、欲しかったのに。何とも言えない可愛らしい黒目の子犬のぬいぐるみを物欲しそうに一通り眺め、出しかけたコインをポケットに捩じ込む。

「ハイスコアじゃないっすか、ピアーズさん」

興奮したように続けたのはフィンだった。
B.S.A.A.北米支部のクリスのチーム隊員一同は都会のゲームセンターへと足を運んでいた。
ピアーズを囲む隊員たちに近づき画面を覗き込み、ああーと納得。そして純粋に驚いた。
ピアーズがやっていたのはシューティングゲーム。フルコンボ、なおかつランキングでは二位を圧倒的に上回る一位。
実戦でも勿論、彼はゲームに置いても凄腕を発揮するのか。

「あ!陽葵副隊長!」

近くにいた隊員が声を上げる。
バッと驚いたように振り返るピアーズに向かって「すごい」と純粋に感想を投げた。

「陽葵さんもやりますか?」

本物の銃とは程遠い玩具の銃を掲げて見せるピアーズ。

「いや、でも」

実戦とゲームは当然ながら違う。器用でない陽葵は自信がなかった。

「いいからやりましょうよ、それとも意外と副隊長ってビビリなんすか?」

ムカつく。前言撤回。コイツ《ピアーズ》を打ち負かしてやる。
陽葵は接続された銃を奪い取るようにピアーズから受け取った。

「うわ、軽い…」

玩具の銃だからかとても軽く、そして弱そうに見えた。
感触を確かめるように握り直し構える。

「公共の場でそんなこと言うもんじゃないですよ」

「……」

公共の場で余裕で高得点弾き出したこの男に言われたくない。
自分は軍人ですと周りに宣言しているようなものじゃないか。ほら、周りの若い女の子たちがうるさいし。

「私が勝ったら奢ってよね」

「勝てたら、ですよ。“勝てたら”」

ちっ、と思わず舌打ちをする。
陽葵は銃を握り直して顎を動かし「コイン」と一言ぶっきらぼうに言った。
副隊長のプライドにかけて陽葵は引き金を絞った。

*

「…陽葵隊長、2位でしたね」

「で、でもピアーズさんより受けたダメージは少なかったですよ!」

フォローするように慌ててフィンはそう言った。
素直で可愛い部下を持ったものだ。しかし虚しい。

「たかがゲームだろ?そんな怒った顔するな」

クリスに頭をわしゃわしゃと掻き回すように撫でられ、陽葵は不貞腐れたようにそっぽを向いた。

「クリス隊長もやれば良かったんですよ…」

「そんなことしても隊長が一位で俺が二位、陽葵さんが三位で余計虚しくなるんじゃないですか?」

「ははは、俺がそんな高得点を叩き出せるとは思えないけどな」

ちっぽけな怒りを誤魔化すように陽葵は酒を一気に飲み干した。

*

「あああ…もうっ…」

ホテルの室内で陽葵はベッドに倒れ込んで枕に拳を埋めた。
ぼふんと鈍い音とじんとくる拳の熱。
せめてこの旅行にジルがいれば。クリスのチーム内で女性は陽葵一人しかいない。

「ホント、副隊長って無用心ですよね」

「……!?ピアーズ!!?何で私の部屋に」

「ここのホテルの鍵、オートロックじゃないって先ほど注意されたばかりじゃないですか」

開いてましたよ、と続けベッドの上に座って寛ぐピアーズの腕に抱かれたぬいぐるみを見て「あ!」と思わず起き上がって指差す。
腕に抱かれた子犬のぬいぐるみは先ほどのゲームセンターのクレーンゲームで欲しかったものだ。
それが差し出され、「うわーいいな」と思わず受け取ってギュッと抱き締める。

「それあげます」

「え…いいの?」

「そんな嬉しそうな可愛い顔されたらあげるしかないと思いますよ普通」

なにさらっとこの男は恥ずかしい台詞を吐くんだ。
気恥かしさを押し隠し、「ありがとう」とぶっきらぼうに言った。
それに、とピアーズはくすりと笑った。距離を縮めるように座り直したピアーズの視線が陽葵へと注がれる。

「アンタが物欲しそうにしてたからアンタの為にとったんだ」

「……」

何なんだ、この男は。混乱に視線を揺らし、戸惑うようにピアーズを見つめる。
ジリジリと距離をどんどん縮めていくピアーズ。その度に後退する陽葵。
上半身がベッドへと跳ねて沈む。シーツの冷たい感触が背中越しに伝わってきた。

「だから陽葵さんは無用心過ぎだって俺言ってるじゃないっすか」

「ピアーズ…!」

「食っちゃいますよ、いいんですか?」

剥き出しの肩に躊躇いもなく唇を寄せ、歯を立てるピアーズの胸ぐらを掴んで抵抗をする。

「ピアーズ!は、離れて…!」

「本当にそう思ってるなら本気で抵抗してくださいよ、副隊長」

ぐらりと視界が揺れる。ああ、本当に何なんだこの男。負けてばかりで苛立つ。
陽葵は口許を吊り上げて笑った。

「貴方もよ…貴方も本気で私を抱きたいなら本気で私をその気にさせなさいよ」

ピアーズは首を傾げ挑発的に笑った。



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