白い足首花鎖で繋いで
帽子を深く被った男はベンチに座って険しい顔をした女性を見つけてほくそ笑んだ。
アリスだ!
アリス・ブラックフォードではないか――!
シャーロックのお気に入りの女性。シャーロックを陥れるための生贄の一人。
事は順調に運んでいる。
シャーロック自身は無自覚だが彼がどんどんアリス・ブラックフォードへ惹かれ手放したくなくなってきているのは分かっている。
モリアーティはクックッと喉の奥で笑い、それを引っ込めてから彼女へ近づくために一歩踏み出した。
案の定アリスはその綺麗な顔を上げて不思議そうに自分を見つめた。
帽子を深く被っているせいか自分の正体がバレていない。
「どうしました?お嬢さん」
モリアーティは声色を変え、演技をすることにした。
「少し…その足を挫いてしまって」
彼女は困ったように眉を下げて笑った。
「ちょっと失礼」
モリアーティは屈んでアリスの足首を優しく掴み上げた。
ヒールを履いた白い綺麗な足。
「医者ですか?」
「いいえ、整体師です」
モリアーティは明るく返した。
「貴方…」
警戒するような声色に変わりモリアーティは見破られてしまったか、と帽子を脱いだ。
案の定、アリスは冷たい目で見下ろしてくる。
それにすら快感を覚えてしまうのは何故か。シャーロックがこんな平凡な女に対して執着を見せるのはなぜか。
探ろうとすればするほど分からなくなる。参った。自分にわからないことなんて一つもなかったのに。
足首を掴んだままのモリアーティにアリスは構わず「今度は何かしら?」と言った。
「いいや、何でもないよ。ただ会いにきただけだ」
ニッコリと笑えばアリスは疑わしそうにモリアーティを見下ろしてきた。
「どうやら歓迎されていないみたいだから帰るとするよ…その前に」
「…っ!」
モリアーティは唇をアリスの足首を寄せ、口付けると一気に吸い上げた。
彼女の真っ白の足首にできた印。
それを満足げに撫でモリアーティは驚愕の表情を浮かべるアリスに向かって歪んだ笑みを浮かべた。
「シャーロックによろしく」
「ちょ…」
追いかけてようとするアリスを撒き、モリアーティは機嫌よく笑いながら帽子を被った。
もうすぐだ。
もうすぐ大好きで最高なゲームができる…!
「その日をとても楽しみにしてるよ、シャーロック、ジョン…それに」
アリス、と吐き出された言葉はシャーロックに対する異常なまでの執着心すら越えてとても危険な色を含んでいた。