平行線な関係2


それでも彼女の意見は新しかった。少なくとも自分にとっては。
気づけば陽葵と名乗った彼女の腕を掴み引き止めていた。
驚いたような双眸と目が合い、レギュラスはようやく彼女に動揺を与えられたことに満足感を得た。

「今度また…話しかけてもいいですか?」

何を言っているのだ、自分は。レギュラスは自身の言葉に呆れた。
陽葵は静かに微笑みゆっくりと頷いた。
そしてたった一言だけ言うと今度こそ去っていった。

「図書、館…?」

彼女が言った一言。それは『図書館』。それだけだった。
その場なら話してもいい。そういうことだろうか?
レギュラスは静かにその場を離れて何事もなかったように寮へと戻った。

**

――あれから随分と経った気がする。

結局あれから一度も彼女と話していない。
レギュラスは溜息をついて左腕に視線を落とした。
見せるだけでどんな魔法使いも怯えて逃げる悪魔のようなこの印をそっと撫でる。
ずっと憧れていた。
“我が君”に関する新聞記事は全て保存してあるし今でも敬意を示すために働いている。

「何なんだ…この違和感は」

そっと呟きハッと顔を上げる。
迷っているのか――?後悔しているのか――?

「だって僕はずっとあの方に…」

「レギュラス」

“死喰い人”の男が自分の名を呼ぶ。
レギュラスは口を噤み、すぐに仮面をつけて表情を引き締め直して振り返った。

「もう出発、か」

「ああ、情報が正しければすぐそこに騎士団のメンバーがいる」

「わかった。すぐに」

今回は騎士団のメンバーを殺害するという重たい仕事を与えられた。
人を殺すのは初めてではない。自分は汚れている。
杖を握り直した。たった一つの呪文で死ぬのだ。
フードを被り、霧立った森の中を静かに歩き出した。



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