無自覚の共鳴

ジョンは立ち上がって危うく手に持った携帯を落とし飲みこんだコーヒーに咽そうになった。
動揺の理由は一緒に暮らすシャーロックと依頼してきた(というよりもシャーロックが無理やり依頼させた)アリスのこの二人。
シャーロックのおかしな行動は多少驚くものの慣れているのだが違う、違う。
その行動はシャーロックが起こすものとは明らかにかけ離れている。
少なくともジョンが思い描くシャーロック像とは全く違う。
アリスはアリスで平然と本を読みながら紅茶を片手で啜っているし
シャーロックはスマートフォンを弄っている。
ここまではジョンもよく見る昼食後のおやつ時、或いは朝食時の光景だ。
立ち尽くしたままのジョンの視線を感じシャーロックは眉を寄せながら顔を上げた。

「どうした?ジョン」

「あ、いや。何でもないよ」

シャーロックの怪訝な視線に慌ててジョンは逸らして「コーヒーをもう一杯淹れてこようかこまいか迷って」と付け足して椅子に座りなおした。
ふーん、そうか。とシャーロックは興味なさそうにそう言い、スマートフォンに視線を戻した。
アリスはぺらっと静かにページを捲って文字を追っている。本に集中しているらしい。
この二人、何時の間に恋人関係に――?

「ところでシャーロック」

「何だ?」

スマートフォンから顔を上げずにシャーロックは答えた。

「最近、変わったこととかない?」

「ない」

即答。ジョンは瞳を揺らし、「えっと」と口を開く。

「恋愛とかやっぱりしないのか?」

そこでようやくシャーロックは顔を上げた。
呆れたような馬鹿にしたような目で見てくる。

「ない、有り得ない」

ハッキリと彼はそう言い切った。
そして奇妙なものを見るような目でしばらくジョンの顔を見つめ、逸らして元の作業に戻った。
ということは恋愛関係には至ってないということだ。それではあれは無意識のイチャつき?

「アリス」

「どうしたの?ジョン」

アリスは本から顔を上げずに答えた。ジョンは戸惑いながら口を開いた。

「恋愛とかその…どうだ?最近したりしてないか?」

アリスは不思議そうに本から顔を上げてジョンを見つめた。
そして好奇の色を含んだ双眸で楽しそうに口を開いた。

「なに?ジョン、恋してるの?」

「驚いた。最近の行動には何も異変がなかったというのに。気付かなかったよ」

否定しようとしたがシャーロックが口を挟みそう言った。
そりゃあ、そうだ。ジョンは恋なんてしていないのだから。

「違う。僕は恋なんてしてない」

「「じゃあ、何(だ)」」

声を見事に被らせながら二人はそう聞いた。
はもったにも関わらず二人はそれを気に留めずにジョンへ視線を投げかけてくる。
何だ、この二人は。

「暇つぶしに聞いただけだ」

咄嗟にそう答えればシャーロックは興味なさそうにスマートフォンを弄り、アリスは残念そうに本へ視線を落とした。
再度、机の下を覗けばやはりアリスの手をシャーロックがしっかりと握っている
なぜだ、なぜシャーロックはアリスの手を握る?そしてなぜアリスはその手を振り払わない?
天才コンサルタント探偵の助手であるジョンはその謎を解くことが出来なかった。
その謎の鍵を持つのはシャーロックとアリスのみである。
或いは互いにその正体に気づけていないかもしれない。

貴方はこのささやかで小さな謎を解けますか――?




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -