ガラスケースに飾られた女


黒づくめの男はニヤリと口元を吊り上げた。
彼が見据える先には棺のような長い箱が光りを受けて反射していた。
辺りは暗いのにそこだけスポットライトを浴びたようにハッキリと見える。
ウェスカーはゆっくりとそこへと近づいた。
硝子の中には乳白色の肌をした女性が横たわっていた。
ドレスや化粧が施され、手は胸元辺りに組まされている。
その姿は美しき眠り姫のよう。
或いは白雪姫のワンシーンを演出しているように感じられる。
ウェスカーはガラス越しに彼女の髪へと手を触れた。

「陽葵」

彼女に与えられた名前を紡ぐ。
それはウェスカーのコレクションが示す人形の名でしかない。
簡単に陽葵は自分の手に落ちた。
彼女は元々、BSAAの極東支部に所属する人間だった。
ウェスカーが惹かれたのは陽葵の美しさだけ。他は興味などない。
自分はまだつくづく人間の端くれなのだと思い知らされる。
そう思うと嫌悪感がウェスカーの中で疼く。しかしこれは仕方のないこと。
生きていれば美しいものに惹かれる。この自然の理は誰にも抗えやしない。
それを集めたくなってしまうのは科学者故か。
どっちにしろ科学者などというのは自分の一能力に過ぎない。
収集したくなるのは自分の手に保管しておきたいからだ。
これは世界にも言えること。
世界を手に入れ、そして全てを保管する神となる。
しかしこの光景を台無しにしてしまっているのは腕に嵌められた手錠――…
唐突に陽葵は目を覚まし、ウェスカーを視界に入れると暴れるように身を捩り始めた。
美しいのに勿体ない。
ウェスカーは皮肉るように嘲笑い、スイッチを押した。
途端、ガラスケースに白い煙が充満し始める。
やがてそれはケース内を覆い隠し、消えると彼女は目を閉じ、元の形に戻っていた。

「陽葵、そこで見ているがいい。私がお前の慕うクリス・レッドフィールドを殺し、世界を手に入れる様を、な」

クツクツと笑い、ウェスカーは身を翻して去って行った。
再び、そこは闇に包まれた。



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