合衆国のエージェントさんのお気に入り

※カッコいいレオンはいません

「っは…はぁ…」

一人の女性が血相を変えながら廊下を走っていた。
カツカツ、と彼女の靴音が廊下に響く。
入院患者たちは、緊急なのだろうと対して気にも留めていなく、ドクターは迷惑そうに顔を顰め、反感を惜しみなく視線で送っている。
それに気づいた女性――陽葵・日名は軽くお辞儀し、反対に同僚たちには非難めいた視線を送り返した。
同僚たちは悪戯っぽく笑っていたのだ。
まるで今日も相変わらずレオンさんに呼び出されるねえ、とでも言うように。(※実際言われた)

「失礼します!」

ばたーん、とドアを開ければ、ペットボトルのミネラルウォーターを片手に持った入院患者
レオン・S・ケネディーがベッドの上で今日も輝かしいばかりの笑みを浮かべていた。
陽葵はため息をし、「またですか」と怒気を孕んだ声で言った。
そしてナースコールの点灯した部屋の外のスイッチを押して消す。
レオンが意味もなくナースコールを押し始めて1週間くらい経つ。
どうしたか、と応答すると物が取りたいから来てや、飲み物買いたいから来てなどの理由だった。
ここ最近は意味もなく呼び出ししてきたから何か言われても適当にあしらい、わざわざ部屋まで行かなかったが今日は少しばかり状況が違った。
いつものように「どうしました?」と応答すると無言で咳き込むような音が聞こえ「待ってて下さい!」と返し、
必死にナースステーションからレオンの部屋まで駆け上がってきたがそれは彼の企みだったらしい。

「いや今回は喉に料理が詰まってしまってな」

「あ、もう大丈夫そうなので戻りますね」

「待ってくれ」

ぱしん、と陽葵の腕をしっかりと掴むレオン。
彼は警察関係の仕事らしい。
脳内にそんな情報を浮かべながら、成程、と陽葵は頷いた。
腕はしっかり掴まれ、振り解けにくい。

「まだ何か?」

「俺と付き合ってくれ」

は?と開いた口が塞がらない。
陽葵は困惑して視線を彷徨わせた。

「ああ…そういう困った顔も俺は好きだ」

ギョッとしてレオンに視線を向けると彼は恍惚とした表情で陽葵を見上げていた。
そして、陽葵の手の平に短く接吻するとフッと笑った。

「騙されるところも、もちろん好きだ」

吐息交じりで言うレオンに陽葵は身震いして手を振りほどき、「失礼します!」と言って部屋を後にした。
からかっているのか、あの男は!
怒りに震えながら陽葵はナースステーションへと戻るのだった。



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