エスケープの魔法


ジェイク・ミューラーは命令で海辺の捜索に当っていた。
任務内容はB.O.W.の遺体の居場所を突き止めることとDNAの回収。
つい先月まで傭兵だった彼は合衆国エージェントであるシェリー・バーキンに命を助けられ、エージェントになったのだ。

『見つけた?』

インカムからシェリーの声が聞こえ、ジェイクは溜息交じりで「いいや全然」と返した。
エージェントの仕事というのは疲れるし面倒だ。
しかしそうもいってられない。助けてくれたシェリーとは幾つもの試練を乗り越え、信用し合い、助け合った仲だ。
そんなシェリーは時々危なっかしい。だからジェイクは離れられなかった。
そのとき遠くの方に人影があった。人影は自分に気づくとスッと廃墟へと引っ込む。

「シェリー、何か廃墟の方に怪しい人影が入ってったぜ」

『怪しい人影…?待ってジェイク。私もすぐそっち行くから――』

「先行ってる」

『ジェイク!』

シェリーの言葉を無視し、通信機を切るとジェイクはホルスターから銃を抜き取った。
この辺り一帯は一般人の立ち入りは禁じられている。
そんな中に自分とシェリー以外の人影があるのは有り得ないし、厳しく封鎖してるところを突破してきたということになる。
敵であることは間違いないだろう。それか海から偶然やって来た浮浪者か。この辺りが危険であることに変わりはない。
救助必要者であれば、保護すればいいし敵であれば捕らえればいい。
ジェイクは駆けて廃墟の中へと足を踏み入れた。カビの匂いが充満する室内。そこは元々ホテルだったようだ。
取り壊し予定のその場所は何も残っていなく砂埃が溜まっている。そのような地面に明らかに人が通った痕跡。
確かシェリーも政府関係者もこの場所は捜索を行っていなかったと聞いている。
銃を構えながら「誰か、いんのか」と薄暗い中呼びかける。
突然、背後から気配がする。振り返ってジェイクは反射的に上半身を反った。蹴りを繰り出した細い足が空を切る。
プロだ――ということは敵。救助必要者じゃない。
ジェイクは遠慮なく拳を入れようとしたがあっさりかわされてしまう。フードを被ったコートの女。
一旦、距離をとり対話を図る。

「おい、女。お前何者だ?」

体の動きは素人が成せる技ではない。無駄のない動き、迷いのないブレのない動き、的確に相手の急所を狙ってくる体術。
どこかで訓練を受けただろう。しかも熟練している。
女は何も答えなかった。しかしジェイクは既に相手の弱点を見つけていた。女はどこか痛むのか左腕を庇うような動きをしている。
相手は負傷しているのだ。ジェイクは隙を突いて距離を詰め一気にパンチを繰り出した。
相手が避ける為に体を捻ったその隙に女の腰に腕を回し銃口を左腕にグリグリと押し付けた。
思ったとおりあった傷口の感覚。そして女の口から漏れ出る悲鳴。ジェイクは女のフードを取り去った。
露わになる女の顔立ち。真面目そうな力強い美しく整った顔立ちだった。女は痛みに顔を歪め、傷口を押さえながら後退した。
傷口には破った布のようなものが巻いてあり血が染み出ている。

「お前、怪我してんのか?」

「……貴方に関係ないわ」

何か言おうとすると駆けてくる靴音。

「ジェイク!無事?」

シェリーだった。女はシェリーの顔を見、目を見張った。
シェリーもようやくジェイクともう一人の姿に気づいたのか女を見て驚く。

「ケイカさん!?」

「シェリー?シェリーなの?」

「おいおい、知り合いか?」

シェリーに問いかければ大きく彼女は頷く。
シェリーがケイカと呼んだ女はシェリーを懐かしそうに目を細め、見つめるとそのままぐったりと目を閉じ体を大きく傾けた。
慌てて抱きとめればそのままぐったりと気を失ってしまう。

「ケイカさん!?」

「大丈夫だ、息はしてる。上にはこのことは?」

「…黙った方が良さそうね。黙ってましょう」

「取り敢えず手当てだな…」





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