Welcome back
ベーカー街へとやって来ると既にシャーロックがタクシーの前に立っていた。
「good morning」
「morning」
シャーロックはそう返し、荷物をタクシーのトランクに積むのを手伝ってくれた。
積み終わると沈黙が訪れる。会話らしい会話も思いつかない。
久しぶり、と声を掛けるのも何だか躊躇われる。視線を揺らし、ようやくアリスは口を開いた。
「…ジョンは?」
「あと少しで出てくる」
「そう……あれ?」
シャーロックの視線がこちらへと注がれた。
「ハドソンさん…誰かと言い合いしてる?」
「ああ…」
シャーロックが口を開くより前にジョンがドアを開けてやって来た。
「船旅なんて嘘だったのね!」
何かが投げつけられて鈍い音が立った。
ジョンは気まずそうに「おはよう」とアリスへ挨拶をし、シャーロックを見上げた。
「隠し妻の存在がバレたみたいだ」
隠し妻?アリスは眉を顰めた。
「妻はもう一人いる」
シャーロックがそう答えるとジョンは荷物と共にタクシー内へと乗り込んだ。
アリスはシャーロックの後に乗ろうと待っていると「先に」と乗車を促してきた。
ありがとう、と短く言い、乗り込もうとすると腕を掴まれ、今度は阻止される。
意味がわからない。彼の行動の意味が理解出来ず、「hey」と振り返ると彼の匂いと共に唇の端に柔らかい感触がした。茫然としていると今度は耳元で彼の囁く声。
動けないアリスを見遣り、シャーロックは背中を押して無理やり乗車させた。幸い、ジョンは見ていなかったようだ。
硬直しながらそれを確認し、アリスは熱を帯びた顔を隠すように俯いた。
「パディントン駅へ」
シャーロックは運転手へそう告げ、ドアを閉めた。
『おかえり』
確かに彼はそう呟いた。一体彼は何を考えているのだろう…。
アリスはそっと顔を両手で覆った。