Little Reasoning


「おいシャーロック…彼女に何をしたんだ?」

声を押し殺してジョンはそう聞き、チラッとアリスに視線をやった。
大体何をしたか想像がついている癖に。
薬を一服、そう一言簡潔に言ってコートのポケットを探る。

「シャーロック…それは不味いって」

呆れたような声だが彼は本気で止めようとしない。
彼はスリルと後ろめたいと考えたからそのように発言したのだ。
シャーロックはやめようとはせず、ポケットの中を探っていた。
手に固いものが触れる。
取り出して不安そうに歪むジョンの顔の前に掲げた。

「iPhoneと財布?」

「アリス・グレイ。お金に困ることはなさそうだ。iPhoneはパスワードつき。
先ほどジョンに繰り出した護身術からもそうだが用心深い人物」

パスワードは何だ…、と呟き始めるシャーロック。
そんな彼の力になれればとジョンは自身のパソコンを開いて触り始めた。
彼女はきっとブログをやっている。それを見つけることが出来ればシャーロックの推理の力になるに違いない。
パスワードが4桁ではない、数字だけでないところが痛い。
数秒してジョンは「シャーロック」と声を掛けた。

「何だ、ブログの内容タイトルなら後にしてくれ」

「そうじゃない。これをみろ、シャーロック」

煩わしそうに顔を顰め、シャーロックは画面を覗き込んだ。
ジョンのブログではない。明らかに女性のものだ。
しかもアリス・グレイとある。
シャーロックは黙々とマウスを動かして彼女の記事を閲覧し始めた。
手がかりになりそうな内容を探す。

「趣味はピアノ…パズル…紅茶…紅茶か」

一番好きな紅茶はストロベリーティー。しかし単純なパスワードではないだろう。
というよりシャーロックは単純ではないでほしいと願っていた。
難しい方が自分の好みだ。苦手な紅茶が『キーマン』とある。
シャーロックは指を動かしてKeemunと入力した。
しかし電子音の後にパスワードが不正であることが伝えられる。
眉を顰め違う、と漏らしシャーロックは再び画面に視線を走らせた。
言葉とは裏腹にどことなく嬉しそうだった。

「パズル…エイトクイーンか」

8queenと入力する。

「ビンゴ」

「エイトクイーン?」

「チェス盤と駒を使用するパズルゲームだ。彼女はパズル好きの一方でチェスも好きだ。
白と黒。どちらかハッキリしないとやりきれないタイプ。
パスワードは全部で6文字。自然とエイトクイーンと出てくるってわけだ」

いつものようにシャーロックは早口でそう捲し立て、携帯に視線を落とした。
なぜそうも簡単に答えを導き出したのか。ジョンにはさっぱりだった。
いつもながらに鋭い推理と彼の思考に舌を巻きながら彼の言葉に耳を傾ける。

「職業はロンドン大学図書館司書。心理学を研究している」

「書いてあるのか?」

「スケジュール帳にフレイン教授に書類提出とある。フレイン教授は有名な心理学者だ」

「…シャーロック、やっぱりこんな探る真似はやめよう…ダメだ」

やはり後ろめたい。
事件の為とはいえ人の携帯端末を探るのは英国紳士としてどうかと思う。
それも今回の事件はたまたま自分たちが通りかかり、無理矢理彼女を依頼者に仕立てようとしているのだ。
シャーロックにその意思はないにしろ、他人から見ればそうだ。
咎めるような口調にシャーロックは眉を一瞬上げただけだった。

「やめたいならやめればいい。彼女に見つかったら僕はやってない、そう言えばいいだろ?」

深々とため息をつくジョンに肩を竦め、iPhoneを投げ渡した。
辛うじてキャッチしたジョンは危ないだろ、と涼しげな顔のシャーロックに向かって伝える。
財布も投げて渡せば、呆れたように天井を仰ぎ、息をつく。

「戻しておいてくれ」

無言でジョンは彼女の財布とiPhoneを元に戻した。

「左ポケットじゃない、右ポケットだ。馬鹿」

そう言えば、ジョンは「大丈夫、僕は慣れてるよ」なんて呟きながら取り出して別のポケットに入れ直した。
作業を終えるとシャーロックは何も行動しようとしないのでぐったりとジョンは椅子に座り、パソコンを弄り始めた。




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