observation or interpretation?

「マズイわ、そっちに行っちゃダメよ」

「いいじゃない、楽しそうなんですもの」

楽しそうに小さな女の子は笑った。その女の子に手を引かれた女の子は困ったように笑う。

「ママとパパにバレてもいいの?」

「アリス、だってもうすぐあなたと私はお別れなのよ?」

「ティナ…」

「離れてもあなたは変わらず私の自慢の姉さんよ」

*

ティナの視線が揺れた。

「君とアリスは幼少期を一緒に過ごした。しかし組織の厳しい戒律のせいで離れ離れになった」

「組織の戒律、とは?」

ジョンは戸惑うように質問をした。
シャーロックはティナへ視線を向けたまま分厚い本を掲げた。
あの本は…。アリスは記憶を辿った。捕まり組織のトップとしてのティナと面会した部屋で見かけた本だ。
ドンとテーブルに置かれる。その本を徐にシャーロックは一気に捲って見せた。
スッと文字が並ぶ一節を指差して読み上げた。

「『一、女王と王の間で生まれた子が一人でない場合殺害し生贄に捧げよ』しかも生贄の捧げ方までご丁寧に書かれている」

しん、と静まる室内。
そうか、これが元老院派のルール。そしてもう一つが…
シャーロックはもう一冊本をその本の上に置いた。同じようにページを捲り一節を迷いもなく指差す。

「『一、女王と王の間で生まれた子が男でない場合、また女児の双子の場合片方を女王とし片方を破門または生贄に捧げよ』」

これが王権懐古派のルール。
くだらないルールだ。

「ティナ・ライス。君は本当にアリスを愛していた。だが愛しすぎていた故に君の存在、妹の存在を綺麗さっぱり忘れていたアリスにショックを受け憎んだ」

「…っ私はただアリスに覚えていてほしかっただけ!だから私は貴方の行方を追ってようやく見つけてでも私のこと覚えていてくれていなくて!」

早口で捲し立てるティナを見つめアリスは悲痛な声で彼女の名前を呼んだが睨まれて口を閉ざすしかなかった。
忘れていた自分は確かに悪い。そしたらティナが犯罪を犯すことはなかった――?
アリスは喩えようのないショックと罪悪感に襲われた。ティナは泣きながら呼吸を落ち着かせるように下唇を噛み静かに続けた。

「…最初は良かったの、最初は一緒に過ごせただけで…。」

「ティナ…」

「でも組織は許さなかった。王権懐古派はアンタを女王とすることを決めていた。私は破門、それか生贄」

「それでも相談、できなかったの?」

「出来るわけない!警察にも内通者はいるの!!」

「それでも私に言ってくれれば」

「忘れてるアンタに言っても意味なんて…」

ああ…結局これは自分が忘れてさえいなければ起きなかった事件なのだ。
忘れていなければ自分は女王となりティナを救えたというのに…。
周りはみんなティナを助けるためにアリスを殺そうとした。アリスを助けるために守ろうとしてくれた。

「アンタは責任から逃れるために記憶を失ったんだよ」

ティナはそう吐き捨て視線を落とした。
記憶を失くした発端というのがわからなかった。そもそも自分に抜けている記憶があるのかさえ曖昧だ。

「それは違う」

シャーロックが口を開いた。驚いて彼を見る。
彼はもうこの事件に興味など失ったかのように思ったがまだあるのか。
シャーロックはティナを読めない表情で見つめ「アリスがそういう人間に見えるのか、君は」と続ける。
シャーロック、それは貴方の観察としての評価?それとも一人の人間としての性格の解釈?
アリスは黙って彼を見続けた。揺れる思い。

「彼女は責任転換するような人間ではない、寧ろその真逆で責任感は強い。彼女が記憶を失くしたと思われるきっかけがあるとすれば
過去のトラウマ。よって精神的ショックで記憶を失った可能性が高い」

ティナは訳が分からずアリスを見つめ視線をすぐにシャーロックへ戻した。

「過去の、トラウマ?一体何のこと?どういうこと?」

問いかけるティナから視線を外し、シャーロックはアリスを見つめる。

「アリス、君の口から言うべきだ」

真っ直ぐと見つめられ、落ち着かない気分になった。





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