A simple key


「それで?」

アリスは下を見下ろし、周りの様子を見渡しながら背後にいるシャーロックに問いかけた。
鉄格子を掴み、冷たさにブルリと身を震わせる。
下にはとても深いプールが見える。
まだ水面まで到達していないが凍てつく冷たさがここまで伝わってくるようだ。
シャーロックとアリスを閉じ込めてるこの鉄格子の檻ごと沈めて殺すつもりだ。

「何だ?」

「何か策でもあるのかなと思っただけよ」

背後を振り返ればシャーロックは座ってあっちこっちに視線をやっていた。
それと同時に思考も回しているのだろう。彼の様子を観察していると目が合った。
細められる双眸を見ながらアリスは平気なことを伝えるために微笑んでみせた。

「声が震えてる」

「…寒いのよ」

「それだけじゃないことは明白だ」

地面についたアリスの手の上に自身の手を重ねシャーロックは真意を図るように真っ直ぐ見つめてきた。
見つめてくるブルーの双眸から目が離せない。
彼の手もひんやりと冷たい。

「怖いのか?死ぬことが」

アリスは薄らと微笑んで首をゆっくりと横に振った。

「貴方が…シャーロックが死んでしまうのが怖いわ」

シャーロックは驚いたように一瞬、目を見張った。
しかし二人の意識は扉の音へと向けられた。
そこに佇む人影を見てアリスは顔を険しくさせる。

「ティナ」

「どう?これからそこのプールに沈んでもらうけど」

「頭の悪い殺し方だな」

シャーロックは馬鹿にするようにそう言った。
しかしティナは歪んだ笑みを浮かべる。
とても余裕そうだった。

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないわ」

檻がぐらりと揺れてゆっくりと下降を始めた。
この速度でいくと5分で沈んでしまうだろう。アリスは焦燥感に駆られた。
このままだと本当に二人とも溺死してしまう。自分はいい。
しかしシャーロックはどうだ?彼はアリスのせいで巻き込まれている。

「せいぜい、神にでも祈っていることね。さようなら、アリス。永久に」

「ティナ!!」

彼女は冷たく微笑むと踵を返して出て行った。アリスは一生懸命頭を巡らせた。
何か策は?せめてシャーロックだけでも助けられる方法は?
目頭が熱くなってきた。アリスは泣かまいと下唇を噛み堪えた。
泣いても仕方ない。ティナに騙されていたのはアリスの方だ。
泣いて喚いてどうするのよ、アリス。

「アリス」

「ごめんなさい…シャーロック。私の頭じゃ切り抜けられる方法が思いつかないみたいだわ」

「いいや、君にも協力してもらう。君の頭が必要だ」

水面がすぐそこまで迫っていた。

「どういうこと?」

シャーロックは顎で違う方向を指し示した。つられて視線をやれば息を切らしたジョンと目が合う。
彼は檻を操作する機械の前に立っていた。しかし、施錠の施された蓋により操作はできない。
南京錠は見たところ頑丈そうだった。

「そういうことね」

瞬時に状況が理解できたアリスは薄く微笑んだ。冷たい水が足元を濡らす。
肌を襲う針が刺す感覚にアリスは心臓まで凍りついたような錯覚に陥った。
喘息が来なければいいが。

「ジョン!ピッキング経験は?」

「あるわけないだろ!確かに金に困っていた時期はあったが泥棒なんて僕はやってない!」

「丁度よかった!アリスの指示に従え!彼女はピッキングの天才だ!」

「ああ!…え。何だって!?」

戸惑うような表情を浮かべたジョンを見遣りアリスはくすくす笑った。

「誤解させるようなその言い方」

「そのくせして君も何も弁解しないんだな」

「貴方のそういうところ好きよ」

ニヤリとシャーロックは口元を吊り上げてみせる。

「図書館司書をやりながら色々研究してたと聞いていたよ」

「よく調べたわね」

「時間がない」

「わかってる。ジョン!その鍵を写真で撮って私にメールで送って!!」

冷たい水が膝までやってきた。
凍えて声がよく出ない。
しかしジョンは聞き取ったらしい。すぐに行動に出てくれた。

「貴方の助手、冷静で良かったわ…」

「ああ、普通の人間であったらパニックになって話にならなかっただろうな」

受信音が鳴り、アリスは震える指先で画面のロックを解除して画像を覗いた。
そして微笑んだ。

「どうだ?解けそうか?」

「ええ、とっても簡単。ティナ、油断したわね」

「ジョンにとっては?」

アリスは遠くの方にいるジョンを見据えて双眸を細めた。

「ええ、初心者ちゃんにとっては中級レベルかしら?」




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