His feelings


神父殺人事件があってからシャーロックは外出を一切せず、室内にいるようになった。
シャーロックが外出を一切しないようになるので必然的にジョンとアリスも部屋にいるようになる。
特にアリスは寝るとき以外シャーロックの目の届く範囲にいる決まりだったのでシャーロックと同じ陽光に当たらない生活が続いていた。
リヴァプールに滞在してから1週間は経つがこれといった動きはない。
しかしシャーロックが何も言わず黙ったまま室内にいるのはいつものことでジョンはあまり気にしなかった。
しかし流石に動きも会話もないと不安が募る。

「邪魔だ」

不意にシャーロックは言った。
戸惑うような視線をジョンが送れば彼はジョンを見据え、首を横に振った。

「何でもない、独り言だ」

「そうか。何が邪魔か聞いちゃダメだったりする?」

「自分でも分からないから無理だな」

「へえ、君でも分からないことってあるんだね」

シャーロックは片方の眉を吊り上げて笑った。

「ああ、特に興味ないことについては全く知識はない」

「そうだったね。ところでアリスは?」

「…アリスなら隣の寝室で寝てる」

「そうか…ここで解決したらもうすぐお別れだな」

寂しくなる、ジョンがそう続ければシャーロックは馬鹿にしたように天井を仰ぎ、肘掛け椅子に深く座り直した。
顔を顰めて「何」と聞けばシャーロックはため息をついた。
そしてぶっきらぼうに言う。

「僕は謎が解ければそれでいい」

「言うと思った。それでも“僕”はとても寂しいよ」

ジョンは本当に寂しさを感じた。
ほんの少しだけシャーロックも同意することを期待したがやはりシャーロックはシャーロックだ。寂しいなどという感情なんて持っていない。
一人に慣れてしまっているのだろう。
――いや、そんなことはない。だがシャーロックの心理なんて深く考えたらそれこそ謎だ。
それにシャーロックは孤独な人間なんかじゃない。
ジョンがいればハドソン夫人もいるし、それに事件が解決すればいなくなるだろうがアリスだって今はいる。
そうだ…彼女はどう思っているのだろうか。
事件が終息してジョンとシャーロックから離れてまた別々の生活に戻るのか――?
何事もなかったかのようにまた互いの生活が始まるのか――?
ジョンは想像できなかった。それくらいアリスといる時間は長い気がする。
そういえばアリスと関わるようになってからシャーロックはあまり女性を馬鹿にするような発言をしなくなった気がする。
馬鹿にするというのは強ちいき過ぎた表現だがシャーロックは少々女性を軽蔑するような態度をしていたことがある。
それにシャーロックはあまりアリスを馬鹿にしない。なぜだろう――?
考えても無意味だ。ジョンはすぐに諦めた。
元々、シャーロックの考えなど読めた試しなどない。
ただ強引にせっかくの素晴らしい事件を逃したくないだけなんだと思うしかなかった。
もう一つ考えが浮かんだがどう考えてもシャーロックらしくない。
その“有り得ない”考えをすぐにジョンは切り捨てた。
退屈でジョンはシャーロックと自身の寝室を覗き込んだがアリスは背を向けて寝てしまっている。
しかもシャーロックのベッドの上で。
黙って扉を閉めてジョンはシャーロックへチラッと視線をやった。
彼も同じく自分を見つめていた。

「あのさ、シャーロック」

「何だ、ジョン」

「君…自分のベッドにアリスを寝かせてるんだね」

「……ああ、そうだが?」

一瞬、間が空きそれがどうした、といったような表情。
やっぱりシャーロックはおかしい。
彼の全てを理解しているわけでもないがおかしいように思えた。
何でもない、と返しジョンは椅子に座り直した。
数分くらい経った後、ドアが開く音がした。
顔を上げればアリスは困ったように笑ってドアに体を隠しながら「あのジョン」と控えめにジョンを呼んだ。

「何だ?そんなところに隠れてないで――ああ…今そっちに行く」

ジョンが立ち上がってアリスの元へ行くと彼女はジョンに耳打ちをした。
それを聞いたジョンは納得したように頷きシャーロックへ視線をやった。
成る程。月経が来てしまったらしい。しかし部屋を出るにはシャーロックの許可がいる。
二人の視線を受けたシャーロックは眉をひそめ、「何だ」と言った。
その声が不機嫌そうなのは彼自身が退屈だからだろう。

「アリスが女性の――」

「ああ、分かった。部屋に戻っていい」

すぐに汲み取ったシャーロックはすごい。無神経なくせして変なところで紳士。
アリスは困ったように笑いながらシャーロックとジョンの部屋を後にした。
廊下から向かい側のドアの鍵が開けられ、すぐに施錠される音が聞こえた。






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